本年度では、熱反応によるラジカル発生法を用いる反応開発から方針を転換して、光反応を用いるボリルラジカルの反応の探索を行った。最初に、前年度から引き続いて、プロパルギルアミド類からのラクタム形成反応を改良すべく、光反応条件下でN-ヘテロサイクリックカルベン―ボランからボリルラジカルを発生させ、アルキンへと付加させる試みを行った。しかし、残念ながら、現時点ではボリルラジカルがアルキンへと効率的に付加する条件は見出せていない。その一方で、可視光照射下で、ボリルラジカルがヘテロ環へと付加する反応を新たに見出した。この反応は本年度の後半に見出されたので、論文として発表するに至ってはいないが、今後、反応条件の最適化を行うことで、さまざまな反応様式に展開することが可能になる知見である。 また、光反応条件下でボリルラジカルを効率的に発生させるために、光触媒としてπ共役高分子を活用する着想を得た。そこで、候補となる高分子化合物として置換ポリアセチレン類に着目し、その設計に着手した。前年度までに、すでに置換ポリアセチレン類の合成法開発は行っていたが、本年度では、新しい光触媒の設計を意図して、より多彩な構造を持つ高分子化合物を合成することに焦点を当てて置換アセチレン類の重合法開発に取り組んだ。その結果、遷移金属触媒を用いる一置換アセチレン類の精密重合法やジフェニルアセチレン類の改良重合法に成功した。特に、後者の方法で得られるポリ(ジフェニルアセチレン)類は高い安定性と特異な発光特性を合わせ持つ高分子化合物であり、光触媒への応用を視野に入れてさまざまな誘導体を合成した。本研究期間内では、光反応へ応用するまでには至らなかったが、これらは新しい研究につながる重要な知見であると言える。今後、これらの高分子化合物の物性を詳細に明らかにし、ボリルラジカル等を発生させるための光反応に応用する予定である。
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