研究課題/領域番号 |
19K06978
|
研究機関 | 昭和薬科大学 |
研究代表者 |
岡本 巌 昭和薬科大学, 薬学部, 教授 (80307074)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 芳香族アミド / 立体構造変換 / フォールディング / 大環状化合物 |
研究実績の概要 |
1.N-置換型ピリジルアミド化合物の合成:昨年度までに得られているGhosez試薬を用いた合成法の知見に基づき、引き続き合成方法の改善を検討した。効率的な合成を行うことが新規化合物群の立体構造特性を検討する上でも重要であり、必ずしも脚光を浴びる部分ではないが、本研究に於いては最重要な案件の一つであると考えている。 2.3,5-置換型大環状ピリジルアミドのN-アルキル基として導入する置換基の特性について:これまでの研究で、N-アルキル基によって合成できる量体に差が出来ることが分かっているが、置換基の種類が立体構造に及ぼす影響については、明らかとなっていなかった。そこでN-プロピル、N-イソブチル、N-ベンジルというように、疎水性の性質を持ちつつ立体作用が異なるような置換基を有する大環状3量体同士の立体構造を比較・検討した。共通して分子構造が杯状構造をとるものの、結晶構造のパッキングが大きく異なっていることが見出された。 3.計算化学による包接能の検討:3,5-置換型大環状ピリジルアミド4量体について、分子軌道計算(Gaussian09)を行い、これまで予備的に結果が得られていた包接能の詳細について検討した。金属イオン等に対しては、4量体が1,3-alternate型の構造をとり、その中にイオンが留まるような極小構造が得られ、特にカルシウムでは堅固な包接体を形成する。実験的にこれらの結果を証明するには至っていないが、ある特定の金属に関しては、質量分析によって複合体と思われるものが検出されている。一方でハロゲン化物等の陰イオンの場合には極小構造が得られないために、包接が不能であると考えられる。即ち、ホスト-ゲストのどちらかの電子状態を変化させることで、ゲストの取込-放出が可能になると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は初頭より発生したCOVID-19によるいわゆるコロナ禍によって、実験室が事実上閉鎖となった。この状況は2020年度前半に渡りほぼ覆い尽くし、実験の進行をはじめ、サンプルの管理等に至るまで困難となってしまった。また当研究機関は大学であり、この状況下で有効な教育を進めることが必須であったためにエフォートの変更をせざるを得ず、結果として前半は研究の進行が大きく遅れることとなった。年度の後半に於いては、感染拡大を防止する対策を講じることで実験を遂行することができた。 当初は予定していなかった、包接能に対する詳細な計算化学的な検討を行った。これによっていくつかの新たな構造化学的な知見が得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後もCOVID-19の感染拡大状況は予断を許さないが、社会的な感染拡大防止の要請に従いつつ、研究体制を維持して遂行していく。 前述の通り、本研究課題は新規な化合物の立体構造を解明するものであるが、その合成手法は日々改良を検討している。ここで取り上げているピリジルアミド化合物は、通常のペプチド結合形成に用いるカップリング試薬では容易に進行しないことが確認されている。また、ピリジルアミド化合物に特有のものであるが、大環状化あるいは直鎖形成の過程に生じるピリジンカルボン酸誘導体が単離および検出困難であり、また更に形成したアミド結合が他の芳香族アミドと比較して弱い点等が不可避な難点である。このことから、緩和な条件で反応が完了するような反応系が必要で有り、これを見出しつつある。今後とも効率的な合成を行うことが、新規化合物群の立体構造特性を検討する上でも重要であり、引き続き改良を進めていく。 立体構造の解明については、低温測定を主とした詳細なNMR解析や、X線結晶構造解析といった手法を中心に行っていく。また質量分析と連携させ、包接能についての検討を進めて行くことも検討中である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は初頭より発生したCOVID-19によるいわゆるコロナ禍によって、実験室が事実上閉鎖となった。その為、実際には本研究に限らず、2020年度前期には当研究施設においては実験を進めることができずに、停止していた。本研究についても、主として計算化学による検討を行っていた他は実験を実施しておらず、本研究費からの支出は行っていない。 その後2020年度の後半からは、感染拡大を防止する対策を講じることで実験を遂行することができたため、実験に関する支出を行っている。 研究内容を根本的に計算化学に変更したわけではなく、計画に従って本研究を遂行する予定であるため、2021年度に助成金を合わせて使用する予定である。
|