研究課題/領域番号 |
19K06980
|
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
高橋 秀依 東京理科大学, 薬学部薬学科, 教授 (10266348)
|
研究分担者 |
伊藤 清美 武蔵野大学, 薬学部, 教授 (60232435)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 軸不斉 / スルホンアミド / ヒドラジン / セミカルバゾン / Menkes病 |
研究実績の概要 |
スルホンアミドのN-S結合については、ベンゾジアゼピンのN-スルホンアミド化体について軸不斉の安定性を調べ、立体構造と生物活性との相関性について明らかにし、論文を発表することができた。引き続いて、スルホンアミドを有する医薬品としてボノプラザンについて立体構造を検討した。まず、ボノプラザンそれ自体の立体構造について検討した。NMRによる検討を行い、E/Z異性体は単離されないことがわかった。一方、軸不斉が潜在することが明らかになったが、室温下で軸不斉異性体を安定な化合物として単離することはできなかった。そこで、ボノプラザンに置換基を導入し、立体電子的な効果によってE/Z異性体の単離及び軸不斉異性体の安定化を検討している。本課題においては、偶然ではあるが、フッ素置換基の効果が離れたところにある水素に及ぶ、大変珍しいthrough space coupling が生じることがNMRの詳細な検討によって明らかになった。このような効果が生じる理由について立体構造の影響を含めて追及を続ける予定である。 また、N-N結合を有するチオセミカルバゾンについては、N-N単結合の立体構造を明らかにすることを目的とし、カルボニル化合物との縮合を検討している。本研究課題は、Menkes病治療薬の開発に応用することも視野に入れて遂行している。今年度は、ジベンゾアゼピン骨格に脂溶性の高いチオセミカルバゾンを結合させた配位子を合成し、銅との錯体構造の形成を試みている。現在は、錯体構造の立体構造を検討しているが、チオセミカルバゾンのN-N結合に由来するねじれ構造があることが示唆されており、銅錯体の立体構造にひずみを与えることができると思われる。これにより、細胞内で銅イオンを効率よく放出させることができるため、本銅錯体は、銅イオンの吸収ができないMenkes病患児の治療薬として有望と考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スルホンアミドの軸不斉について、論文をJournal of Organic Chemistryに発表することができた。また、ボノプラザンの有するスルホンアミドについても、軸不斉異性体の安定性について知見を得ることができた。ボノプラザン誘導体の分子設計は、本研究課題の当初から想定していたものであり、予定通り合成に着手できたので、順調に進展していると判断できる。加えて、大変珍しいthrough space couplingを見出すことができた。このようなカップリングが起こる理由について立体構造の観点から検討を続けており、近い将来に、立体構造とthrough space couplingの関連について、一定の法則性を見出すことができると思われる。 Menkes病の治療薬開発については、ヒドラジン及びヒドラゾン、セミカルバゾンに注目し、銅錯体にねじれを生じさせて、細胞内で銅を放出しやすくする新たな機能性分子を創出すべく検討を続けている。すでに銅錯体の立体構造について結果が得られており、当初の計画通りに研究が遂行されていると考える。また、既存の銅錯体の合成を行い、研究分担者にMenkes病の病態モデル動物での投与を検討していただき、Menkes病動物の細胞内で還元性がより高まる可能性があるという結果を得た。これらの情報は、今後の分子設計に活用することができる。 以上のように、本研究課題は研究計画に沿って遂行されており、おおむね順調に進展していると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
スルホンアミドを有するボノプラザンの立体化学について、順調に研究は進展しているが、研究の途上で偶然にthrough space couplingを見出すことができた。なぜ、本化合物にこのようなカップリングが生じるのか、大変興味深い。今後は、立体構造の解明という観点からさらに追及することにより、このようなカップリングが生じる立体的な構造の要因を明らかにする。 Menkes病治療薬の開発については、銅錯体を分子設計及び合成することができつつある。今後は、得られた銅錯体を研究分担者である武蔵野大学薬学部の伊藤清美教授に供与し、Menkes病の動物モデルを使った薬物動態研究を行っていただく。本研究では、Menkes病態モデルであるマクラマウスの入手が必要であるが、これに関しては帝京大学医学部小児科の児玉浩子教授にもご協力いただく必要がある。連絡を緊密にとって効率よく動物実験を進めたい。また、より実用性の高い治療薬開発をめざし、脳への選択性を高めることもめざす。具体的には、抗体-薬物複合体を設計・合成し、その機能を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
作製した銅錯体の酸化還元電位を測定する機器(サイクリックボルタンメトリー)を購入する予定でガラス器具や試薬などの消耗品費を節約していたが、サイクリックボルタンメトリーの機種変更があり、当初の予算よりも安く購入できた。次年度に消耗品を併せて購入することにしている。 次年度は動物実験のサンプルを供与する機会が増えるため、より大量の化学合成をする必要がある。したがって、消耗品が多くなることが予想される。また、抗体-薬物複合体の分子設計及び合成については、生物系の高価な試薬等の購入も予想される。消耗品の購入にあたっては、予定通りの予算の執行に努める。
|