研究課題/領域番号 |
19K06981
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研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
杉田 和幸 星薬科大学, 薬学部, 教授 (60542090)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 天然物 / haplomintrin B / caseabalansin A / mollolide A / 全合成 / SmI2 / 分子内ロビンソン型環化 |
研究実績の概要 |
haplomintrin Bの全合成については、2つのメチル基をジェミナルにもつシクロヘキセンカルボン酸ユニットとフラン環および共役ジエンユニットをエステル結合で連結した後、分子内ディールス・アルダー反応を行い、一挙に3環性骨格を構築することを計画した。今回、鍵工程である分子内ディールス・アルダー反応について、種々反応条件を検討したが、これまでのところ目的物を得るには至っていない。 caseabalansin Aの全合成については、必要な側鎖を備えたシクロヘキセンカルボン酸ユニットと、ジエンユニットをエステル結合で連結後、分子内ディールス・アルダー反応を行い3環性骨格を構築、2つの分子内アセタール構造をもつ4環性化合物へと変換し、最後にジエン側鎖を導入することを計画した。今回検討した結果、分子内ディールス・アルダー反応が進行しなかったため、分子内ロビンソン型環化によりデカリン骨格を構築することに成功した。さらに、2つの分子内アセタール構造の構築についても、反応溶媒、温度および試薬等を検討することで、問題を解決することができた。終盤のジエン側鎖のネオペンチル位への導入は、多くの反応条件を検討した結果、進行させることに成功し、最後に脱保護を行い、目的の(±)-caseabalansin Aの全合成を達成することができた。 mollolide Aの全合成については、必要なユニットを備えたエポキシシクロペンタノンを合成後、SmI2を用いる還元的環化反応によりビシクロ[3.2.1]オクタン骨格を形成し、ラクトンパートとのカップリングを実施し、最後に脱保護および官能基変換により目的物であるmollolide Aを得ることを計画した。今回検討した結果、ビシクロ[3.2.1]オクタン骨格パートとラクトンパートとのカップリング反応が進行しなかったため、結合部位を変更した経路を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
haplomintrin Bの全合成の進捗については、想定範囲内と考えている。分子内ディールス・アルダー反応を用いた合成経路が進行すれば、非常に少ない工程数で目的物を合成することが可能であったが、ジェミナルの2つのメチル基が決定的な立体障害となり、反応は進行しなかった。そこで分子間でのディールス・アルダー反応によりデカリン骨格を構築したが、その後の官能基変換で問題が生じ、中断している。現在、ロビンソン環化によるデカリン骨格の構築を種々の様式で検討しつつ、ジェミナルの2つのメチル基の導入を模索している。 caseabalansin Aの全合成の進捗については、全合成を達成することができたので、順調と判断できる。最も期待していた分子内ディールス・アルダー反応を用いた合成経路を断念せざるを得なかったのは、とても残念であった。ジェミナルの2つのアルキル基は、分子内ディールス・アルダー反応に対して決定的な立体障害となり、反応が進行しなかったものと考えている。分子内ディールス・アルダー反応経路に見切りをつけ、ロビンソン型環化へと経路を変更し、立体選択性の問題を適切に解決していった点が、効果的であった。 mollolide Aの全合成の進捗については、想定の範囲内と考えている。立体制御の点で多くの困難に遭遇したものの、鍵工程の前駆物質の合成には成功し、また、本全合成の特色となっているSmI2を用いる還元的環化反応によるビシクロ[3.2.1]オクタン骨格の構築は、計画通り達成することができた。ラクトンパートとのカップリング反応は、立体障害のため進行しにくいことを予想していたが、反応温度の上昇に伴い、基質の分解が比較的早い段階で生じたことは、想定外であった。
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今後の研究の推進方策 |
haplomintrin Bの全合成の今後の展開については、ジェミナルの2つのメチル基の構築法と、フラン環結合部位の立体化学について、新規性を確保しつつ検討を実施している。現在、デカリン骨格を構築した後にジェミナルの2つのメチル基を導入する合成経路を検討中である。特に、ロビンソン型環化反応を用いる合成経路を中心に、研究を実施する予定である。 caseabalansin Aの全合成の今後の展開については、ラセミ体での全合成を達成したことから、光学活性体での全合成を検討中である。誘導体を合成し、caseabalansin Aそのものを含め生物活性評価を実施するためには、光学活性体を用いる必要性があることから、高い意味をもつと考えている。しかしながら時間を大きく節約することができることから、光学活性カラムを用いる光学分割の検討も計画している。 mollolide Aの全合成の今後の展開については、当初オプションとして用意してあった、ラクトンパートとビシクロ環パートとのカップリング反応を行う結合を、結合1つ分ラクトン側へ移動させた2つの基質の合成を実施している。
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