研究課題/領域番号 |
19K06988
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
薬師寺 文華 北海道大学, 薬学研究院, 講師 (40548476)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ケミカルエピジェネティクス / ヒストンメチル化 / ドライバー遺伝子変異 |
研究実績の概要 |
ガン細胞におけるドライバー遺伝子変異の解析・同定が進むことで創薬標的の可能性は広がったが、各々の遺伝子変異に対する治療法を見出すのは未だ困難であり、継続的な検討が求められている。本研究では、小児脳幹グリオーマのドライバー遺伝子変異であるヒストン H3K27M に着目し、ヒストン H3K27 メチル化の正常化を目的に新規リジンメチル化モジュレータの獲得を目指す。 ヒストン H3K27M はヒストン H3K27 メチル化酵素複合体 PRC2 阻害作用を示すことから、ゲノム全体でH3K27メチル化の有意な減少が観察されている。一方で、一残基変異の場合、変異タンパク質特異的な親和性化合物を見出すことは困難であり、新たな創薬方法論の構築が急務と言える。そこで、本研究課題において、1)ヒストン H3K27M のメチオニン特異的化学修飾による機能阻害剤、2)ヒストン H3K27 メチル化酵素 PRC2 活性促進剤の創製を試行することで、最悪性型グリオーマのケミカルエピジェネティクスを展開することとした。 各々の課題について実験を遂行し、1)ヒストン H3K27M のメチオニン特異的化学修飾による機能阻害剤では、ウレア型オキサジリジンを反応剤として用いることで、メチオニン選択的な修飾が可能であることを確認した。また、2)ヒストン H3K27 メチル化酵素 PRC2 活性促進剤の創製では、 H3K27me3 モチーフを含む環状ペプチドが有効であることを見出した。今後は上記2種の化合物を用いてさらなる詳細を検討していく予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒストン H3K27M のメチオニン特異的化学修飾による機能阻害剤の創製では、In vitro PRC2 活性評価条件下でのメチオニン特異的修飾法として、ウレア型オキサジリジンが反応剤として有効であることを見出した。本反応剤は反応性が高く、安定性にやや問題があるため、ウレア部位に種々の置換基を導入した後、反応速度やアミノ酸残基選択性について検討を行った。反応速度および生成物の安定性が高い誘導体においてもメチオニン選択的に反応が進行することを確認し、in vitro PRC2 活性評価系において、in situ メチオニン修飾がPRC2阻害作用の抑制(解毒)につながるかを検討している段階にある。 ヒストン H3K27 メチル化酵素 PRC2 活性促進剤の創製では、PRC2 サブユニットの一つである EED に結合することでヒストンメチル化活性促進作用を示す H3K27me3 ペプチドをリード化合物とし、研究を展開している。活性必須残基の特定と、物性改善を目的とした環状体への変換により、リード化合物の活性を凌ぐ誘導体の獲得に成功した。さらなる構造活性相関研究をもとに、細胞でも機能する誘導体の獲得を目指す。
|
今後の研究の推進方策 |
ヒストン H3K27M のメチオニン特異的化学修飾による機能阻害剤の創製では、変異したメチオニン残基の in situ 修飾により、PRC2 阻害作用の抑制が見られるかを引続き検討していく。In vitro PRC2 活性評価系はすでに構築していることから、メチオニン修飾体を用いた検討、さらに in situ メチオニン化学修飾による解毒作用の確認へと進むことで、初期目標の達成を目指す。 ヒストン H3K27 メチル化酵素 PRC2 活性促進剤の創製では、リード化合物を凌ぐ活性を有する誘導体を軸に、細胞評価系でもヒストン H3K27 メチル化レベルを亢進する化合物の獲得を目指す。構造活性相関研究を行うことで環状ペプチド誘導体において変換可能な部位を見出し、疎水性残基の導入や脂溶性の向上を試みる。また、膜透過性について誘導体に蛍光基を導入後、顕微鏡で確認する。細胞評価系において抗体検出によるヒストン H3K27 メチル化レベルの上昇が見られたら、遺伝子発現解析も実施することで、PRC2 活性促進剤の寄与を細胞レベルで検討していく。
|