本課題では、ヒストン H3 の 27 番目のリシン (H3K27)がメチオニンへと変異した小児脳幹グリオーマのドライバー遺伝子変異に着目し、H3K27メチル化の正常化を目的としたケミカルエピジェネティクス研究を展開した。具体的には、以下の二点を軸に検討を行った。 1)ヒストン H3K27 メチル化酵素複合体を標的とした活性促進剤の創製研究 これまでに、標的酵素の活性化モチーフを含む鎖状ペプチドをリード化合物とし、環状体へと変換することでさらに強力な活性促進作用を示す化合物を見出している。独自に創製した環状ペプチド誘導体の構造活性相関研究および構造、機能解析をさらに実施した結果、環状ペプチドが有する芳香族アミノ酸および塩基性アミノ酸が相互作用形成に有効であり、リード化合物と同様の機構で標的酵素複合体を活性化していることが示唆された。 2)メチオニン残基選択的な化学修飾によるヒストンメチル化制御 遺伝子変異により導入されたメチオニン残基選択的な化学修飾を基盤としたヒストンメチル化制御について検討を行った。ヒストン H3K27M ペプチドに対する選択的化学修飾を検討した結果、オキサジリジン誘導体を用いることで種々の置換基をメチオニン上に導入することができた。また、メチオニン上に導入した置換基の違いが標的酵素複合体の機能制御に寄与することを明らかにした。
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