本研究では、生命科学・創薬化学への展開を志向し、それらに資する“ロバストな”金属(触媒)反応による有用官能基導入法の開発を目的とする。本年度に得られた主な実施内容を以下の2点にまとめる。 脂肪酸の重水素化プロセスを構築し、4つの重水素が位置および数選択的に導入された多様な脂肪酸を合成した。本プロセスを用いて1グラム以上のリノール酸-d4を合成し、大スケールでも容易に実施可能であることも示した。得られた重水素化脂肪酸を用いてホスファチジルコリンを合成したところ、MS/MS解析におけるプロダクトイオンとして重水素化ホスホコリンを選択的に検出できることを確認した。さらにMS/MS解析におけるリン脂質合成における位置選択性や重水素化位置の効果についても詳細に検討を行った。また、この特徴的なプロダクトイオンを活用することで、網羅的な解析が行えるようになった。本法で重水素化した脂肪酸の代謝挙動を検討し、特に酸化脂肪酸の一つであるHODE由来のアシル基をリゾリン脂質に転移するアシル基転移酵素を同定した。 KHを塩基とするベンジルアミンとスチレンの反応では、ヒドロアルキル化反応が進行し、想定されるヒドロアミノ化反応は進行しなかった。この選択性について実験および理論計算による検討を行った。カルバニオンは対応するアミドアニオンに比べて不安定であるものの、金属中心へのスチレンの配位が有利であるため、続くヒドロアルキル化反応が選択的に進行することを見出した。
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