本研究は、核酸医薬の一つであるアンチセンス核酸医薬(ASO)の高機能化を目的とし、人工カチオン性分子(ACM)をASOと共有結合的に連結した、ACM-ASOを開発するものである。 全期間を通じ、ACMとしてはカチオン性ペプチドを中心として研究を進めた。ACM-ASO合成・精製の難易度はACMやASO構造に依存し、例えばホスホロチオエート(PS)修飾の少ないASOでは比較的ACM-ASOの合成が容易だったが、PS修飾が多い場合、ACM-ASOのコンジュゲーション過程において凝集が起こりやすく合成や精製が困難な傾向があった。ASO(化学修飾、長さ含む)やACM(カチオン性残基の種類、密度)、リンカー構造等の検討を行った。また、ACM-ASOコンジュゲートは、電解質濃度が小さいほど静電相互作用が増強し凝集しやすくなると考えられるため、緩衝液に溶解した状態を保ったまま精製、同定(質量分析)を行う方法も確立した。一方で、ACMとASOをそれぞれ合成後にコンジュゲーションする標準的な方法では、両者の相性が悪い場合に凝集を完全に回避するのは困難であり、最終年度には固相担体上でACM、リンカー、ASOを順に合成する合成法の検討も行った。一部の取得できたACM-ASOについてはその物理化学的性質やRNase H活性を評価し、ACMとのコンジュゲーションによりASO/RNA二本鎖の熱安定性が向上し、またRNase Hによる標的・非標的RNAの切断活性を変化することを見出した。 また、本年度、ACMとしてオリゴガラクトースを主骨格とするカチオン性オリゴ糖を添加することによりASOの性質を制御することを主旨とする論文が、受理・公開された。この論文では、ASOとRNase HによるRNA切断プロファイルを制御し、さらに適切な化学修飾を有するASOと組み合わせることで、非標的RNAの切断効率を抑制することができた。
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