多成分連結反応は,3種類以上の成分を1つのフラスコの中で反応させて単一の生成物を与える反応であり,医薬品探索研究などによく用いられる。例えば、生理活性を有するキナゾリノン誘導体は、有機溶媒中「イサト酸無水物、ベンズアルデヒドおよびアミン」の3成分に酸化剤を添加することによって合成することができる。しかし、毒性の高い酸化剤を大量に使用し、基質であるベンズアルデヒドをアルコールから予め調製しておく必要があることから、より環境負荷の低い触媒的合成法の開発が望まれていた。 本研究では、水を溶媒として水溶性パラジウム触媒を用いた環境調和型の新しい多成分連結反応によるキナゾリノン合成法を開発した。水を溶媒として「イサト酸無水物、ベンジルアルコールおよびアミン」の3成分に、パラジウム触媒を加えることによって、反応性の低いベンジルアルコールをそのまま多成分連結反応に用いることが可能になり、より効率的にキナゾリノン誘導体を合成できるようになった。また、多様性に富むキナゾリノン誘導体の効率的な化合物ライブラリー構築への展開が期待できる。 パラジウム触媒とベンジルアルコールからπ-ベンジルパラジウム錯体が形成し、それぞれの中間体を活性化していくことによって、まるでドミノが次々と倒れるように、1つのフラスコの中で連続して反応が進行する。本反応は、これまでの常識に従い有機溶媒中で実施しても進行せず、「反応場としての水の特性(疎水効果を増幅させる性質や高い水素結合能)を積極的に活用し、水中において特異的に機能する触媒系を構築する」ことによってはじめて達成することができる。 現在、この知見を基にして、Pd(0)/TPPMSを触媒としたベンジルアルコールの脱水素化反応を基軸とするイミダゾキノリンの合成法や触媒的脱水型Pictet-Spengler反応によるβ-カルボリン類の合成への応用を目指している。
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