研究実績の概要 |
昨年度までに我々は、9月齢のアルツハイマー病 (AD) モデルマウスにおいて、Gpnmb遺伝子を半減させると、空間記憶障害が軽減することを見出した。しかしながら、GPNMBがどのようにAD病態の形成に関与するのかは明らかとなっていない。また、ADにおいて毒性の本体と考えられているオリゴマー状のアミロイドβ(o-Aβ)とGPNMBの関係についても不明である。生理的にミクログリア (MG) は、o-Aβなどの毒性物質が脳内に生じた場合、速やかに貪食分解し、常態に復する役割を担っていると考えられるが、病態時においては、o-Aβを取り込むことで慢性的な炎症を誘発する危険な細胞として捉えられている。 そこで我々は、Gpnmb 遺伝子欠損MGと野生型MGを調製し、o-Aβのクリアランス能に差が見られるかを調べた。また、o-Aβによって引き起こされる炎症反応にGPNMBが関与するかを調べた。o-Aβのクリアランス活性は、これまで我々が開発した方法(Shimizu, Kawahara et al., J Immunol, 2008; Kawahara, Suenobu et al., J Alzheimers Dis, 2014)により調べた。すなわち、Aβ1-42・HCl塩からo-Aβを調製した後、Iodogen法を用いてo-Aβを[125I]標識した。Freeの[125I]を除去した後、[125I]o-Aβ1-42をGpnmb欠損マウスと野生型マウスから調製した1型MGに添加し、[125I]o-Aβ1-42の取り込み分解活性を調べた。その結果、Gpnmb 欠損マウス由来の1型MGは、野生型1型MGに比べて、[125I]o-Aβの分解活性が有意に低かった。また、低濃度LPSとo-Aβのコンビネーションによって誘発されるiNOSの誘導は、Gpnmb欠損1型MGの方が野生型1型MGよりも低かった。以上の結果より、1型MGに発現するGPNMBは、o-Aβのクリアランスとo-Aβによる炎症反応の両方に関与する可能性が明らかとなった。これらについては、まだ他の研究者による報告がないため、別の実験方法などを含め、再現性を注意深く調べる必要がある。
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