研究実績の概要 |
反応場空間の適切な設計は,有機合成化学において反応の各種選択性(立体選択性・位置選択性・官能基選択性等)を制御し向上させる為の重要な手段である。 本研究課題では,フルオラス鎖間引力(フルオロフィリック効果)に依拠したフルオラス-スタッキング現象を分子設計指針として「反応場の新規空間形成」に取り組み,効果的な触媒反応系を達成する。 昨年度までに分子内フルオロフィリック効果により配座変容が期待できるフルオラスタグ二点導入型ビスオキサゾリン配位子を合成することができた。しかしながら本配位子の銅配位型触媒を用いた不斉ヘンリー反応(基質:ニトロメタン及びp-ニトロベンズアルデヒド)では,有機溶媒中と含水有機溶媒中で立体選択性に顕著な差が観測されなかった。本配位子ではフルオラスタグのベンジル基スペーサーが分子内スタッキングに不利に働いた可能性がある。そこで今年度は空間的にフルオラスタグ同士が近付くように分子設計した新たな不斉ビスオキサゾリン配位子の合成をおこなった。 本配位子の銅配位型触媒を用いて再び上述の不斉ヘンリー反応を行った結果,付加生成物の立体選択性に関して興味深い結果が得られた。すなわち,同じ絶対配置の不斉源を有する配位子を用いたにもかかわらず,同反応条件下,無置換型配位子(コントロール配位子)使用時と,フルオラスタグを隣接位に二点導入した配位子使用時とでは付加生成物の絶対配置が逆転することがわかった。これはとりもなおさず,反応の遷移状態において異なる不斉環境反応場を経由したことを示唆している。自然界由来の安価で入手容易な不斉源の使用条件下,配位子上への二つのフルオラス鎖導入のみで,プロキラル面の不斉認識の逆転を可能にする手法が実証できた。他の様々な不斉触媒反応においても同技術の応用利用が期待できる。
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