複雑化合物への機能付与を目的とした選択的修飾法が注目を集めている。これを達成する一つの手段となる位置選択的反応は、複数存在する同一官能基の中から特定の部分だけを選択的に反応させる方法論であり、その開発が強く望まれている。我々はこれまでに、独自に着想した新規エステル化剤と金属イオンの配位によるテンプレート効果を利用し、複数のヒドロキシ基存在下、α-ヒドロキシアミドを選択的にアシル化する手法を開発している。一方、類似基質であるβ-ヒドロキシアミドはペプチド中Ser/Thr残基に含まれる部分構造であるため、選択的修飾部位として魅力的である。そこで、本研究をさらに発展すべく、β-ヒドロキシアミド選択的アシル化反応および選択的グリコシル化反応の開発に取り組んだ。令和2年度までに、1) O-結合型糖ペプチドに含まれる5つのヒドロキシ基が無保護の状態でセリン残基側鎖ヒドロキシ基の位置選択的アシル化反応を達成した。また、選択的ビオチン化も本法によって可能であった。2) N-グリコリル構造含有二糖への位置選択的アシル化反応を実施し、多数の無保護ヒドロキシ基存在下、α-ヒドロキシ基を位置選択的にアシル化に成功した。令和3年度は、 3) グルコサミン1位にオキシムカーボネート型構造を有する新たなグリコシルドナーを合成し、金属イオン存在下グリコシル化反応を試みたところ、中程度の選択性にてβ-ヒドロキシアミドへの選択的グリコシル化反応が進行することを確認した。しかし、同時にオキシムカーボネート構造がアシル化剤として作用し、望まぬアシル化が進行してしまうことも明らかとなった。 4)アセチルアミド基を有するN-アセチルグルコサミンの3位選択的アシル化反応を検討した。中程度の収率ながら反応性の高い6位ヒドロキシ基存在下、3位ヒドロキシ基の選択的アシル化法を発見した。
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