研究課題/領域番号 |
19K07008
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
住吉 孝明 関西大学, 化学生命工学部, 准教授 (50738911)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | HDAC阻害剤 / 創薬化学 / 代謝安定性 |
研究実績の概要 |
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤は神経変性疾患の新規作用機序に基づく治療薬になることが期待されている。しかし、脳移行性が高いHDAC阻害剤は例が少なく、いまだ中枢性疾患治療薬として上市されたHDAC阻害剤はない。初年度の研究では、高い血液脳関門透過性を有する、抗ヒスタミン薬pyrilamineの構造を導入したHDAC阻害剤の薬物動態プロファイルと安全性を評価するとともにその改善を目指し、合成展開を行った。 当該リード化合物の部分構造であるpyrilamineは、その4-メトキシベンジル構造が速やかに酸化的代謝を受けることが知られている。まず、リード化合物の細胞膜透過性および肝ミクロソームを用いた代謝安定性を評価した。その結果、リード化合物はヒト肝ミクロソームで速やかに代謝されることを見出した。そこで、代謝安定性向上を目指し、リード化合物の4-メトキシベンジル基について構造変換を行った。また、循環器系副作用発現につながるhuman Ether-a-go-go Related Gene (hERG)阻害作用が主作用であるHDAC阻害作用と同等であったことから、化合物の脂溶性および塩基性窒素の立体的大きさに着目し、ジメチルアミノ基の構造変換および組み合わせ合成を実施した。構造活性相関研究の結果、新たに見出した化合物は肝ミクロソーム安定性が大きく向上するとともに、そのHDAC1阻害活性は元のリード化合物の約2倍に向上した。さらに、本化合物はリード化合物に比べてhERG阻害作用および分子量の低減に成功しており、より優れたリード化合物になると期待できる。 これらの本化合物創出の過程をまとめ、論文発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
血液脳関門に発現して化合物の脳内移行に関与するアンチポーターの基質である抗ヒスタミン薬pyrilamineをHDAC阻害剤に組み込む戦略は、高い血液脳関門透過性とHDAC阻害活性の両立を達成したが、その薬物動態的性質および安全性は不明であった。まず、リード化合物の細胞膜透過性および肝代謝安定性、ならびにhERG阻害活性を評価し、肝ミクロソーム代謝安定性が低いこととhERG阻害活性が主作用であるHDAC1阻害活性と同等で安全マージンがほとんどないことを見出した(HDAC1 IC50 = 4.8 uM, hERG IC50 = 3.7 uM)。代謝安定性向上の方策として、抗ヒスタミン薬pyrilamineと同様に、4-メトキシベンジル基のメトキシ基の脱メチル化およびベンゼン環の酸化が原因と想定し、メトキシ基のベンゼン環への高い電子供与性を回避すべく、電子吸引性基への変換を目指し、構造変換を行った。その結果、4-メトキシ基を亜鉛結合部位としてもはたらくN-(2-アミノフェニル)アミノカルボニル基に変換した化合物が、リード化合物の約2倍のHDAC1阻害活性を示すとともに大きく代謝安定性が向上した。また、化合物の脂溶性低減および塩基性窒素周囲の立体を大きくすることでhERG阻害活性の低減を目指し、組み合わせ合成を行った。合成した化合物群の代謝安定性、細胞膜透過性およびhERG阻害活性を評価したところ、HDAC阻害活性が向上するとともに、代謝安定性およびhERG阻害活性を改善した化合物を見出した(HDAC1 IC50 = 2.2 uM, hERG IC50 = 10.9 uM)。 上述のように、薬物動態および安全性を向上する化合物の合成展開は順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
化合物の合成ルート・HDAC阻害活性評価・初期薬物動態評価(細胞膜透過性および肝ミクロソーム安定性)の評価体制が確立し、合成展開はおおむね順調に進展している。HDAC阻害活性を維持しつつ分子量・脂溶性の低減に成功したが、極性基を導入すると細胞膜透過性が低下した。そこで、化合物の脂溶性と細胞膜透過性とのバランスを早期に見極めるべく、引き続き化合物の合成展開を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
おおむね計画通りに試薬等の研究資材を購入したが、所望の試薬や器材を購入するには足りない額の残額が生じた。そこで、翌年度の助成金とあわせ、消耗品の購入にあてる計画である。
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