研究実績の概要 |
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)6阻害剤は新規作用機序を有する抗うつ薬にとして期待される。HDAC6阻害剤は活性発現に高極性のヒドロキサム酸構造が必須であり、その多くは脳内に移行できないという課題がある。今年度は、抗ヒスタミン薬Cetirizineの部分構造であるベンズヒドリルピペラジンに着目した。ベンズヒドリルピペラジンとHDAC6阻害剤Tubasutatin Aをハイブリッドした化合物を設計・合成し、HDAC阻害活性および選択性を評価したところ、高いHDAC6阻害活性とアイソザイム選択性(HDAC1 IC50 = 4,4 uM, HDAC4 IC50 = 4.4 uM, HDAC6 IC50 = 0.11 uM)を示した。しかしながら、本化合物は強いhERG阻害活性(IC50 = 0.66 uM)を示し、心毒性の懸念があった。そこで、hERG阻害能発現の理由と考えられる、化合物の脂溶性を低下すべく、ベンズヒドリル構造に含まれる2つのフェニル基の1つをメチル基に変換した化合物KH-259を合成した。KH-259は、基準を満たすHDAC6阻害活性と選択性(HDAC1 IC50 = 6.7 uM, HDAC4 IC50 = 12.3 uM, HDAC6 IC50 = 0.26 uM)を示すとともに、期待通りhERG阻害活性は大きく低下した(IC50 > 100 uM)。また、細胞膜透過性および肝ミクロソーム代謝安定性も良好であり、マウスで高い脳移行性を示した。以上の結果から優れたリード化合物と考えられたため、うつ病モデルであるマウス尾懸垂試験を行ったところ、一般的な抗うつ薬であるフロキセチンと同等の抗うつ作用を示した。以上の結果から、見出したKH-259は優れた抗うつ薬になることが期待できる。
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