【目的・背景】エストロゲン受容体(以下ER)は,核内受容体スーパーファミリーのうちの1つでありERαとERβの2つのサブタイプが存在する.ERαとERβは組織分布が異なっており,特にERβはその生理機能は不明な点が多く,ERβを標的とした薬剤はまだ開発されていない.近年,ERβがトリプルネガティブ乳がん(以下TNBC)の増殖に関与している可能性が示唆された.我々はこれまでに,ERαのアンタゴニストに長鎖アルキル基を導入した化合物をデザイン・合成し,これらの化合物がERαの分解誘導剤として機能することを報告している.そこでその分子デザインを応用し,本研究ではTNBCの新規治療薬を目指して,ERβ選択的分解誘導剤の開発を目的とした.【方法】ERβのリガンドであるWAY-202196に長鎖アルキル基を導入した化合物WC10をデザインし,全7ステップで合成した.その結合親和性をPolarScreen ER Competitor Assay Kitを用いて評価した.検出には蛍光偏光法を用い,IC50を算出した.計算化学ソフトMOEのドッキングシュミレーションを用いてWC10とERβの結合様式を予測した.【結果・考察】WC10のERに対するIC50は(6.88 nM for ERβ,286nM for ERα)であった.また,WAY-202196とERβのX線結晶構造解析の結果(PDB ID: 1YYE)とMOEの結果を比較すると,WC10は水素結合が減少(2→1)し,ナフタレン環が反転していることが示唆された.以上のことから,WC10のERサブタイプ選択性とERβとの結合様式を明らかとした.今後は細胞を用いた活性評価を行う予定である.
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