研究課題/領域番号 |
19K07019
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
佐久間 信至 摂南大学, 薬学部, 教授 (80388644)
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研究分担者 |
伴野 拓巳 摂南大学, 薬学部, 助教 (30824685)
鵜川 真実 摂南大学, 薬学部, 助教 (50735511)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ドラッグデリバリーシステム / 吸収促進 / 経粘膜吸収促進 / バイオ医薬 / タンパク質 / 膜透過ペプチド / 膜透過ペプチド固定化高分子 / ヒアルロン酸 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、膜透過ペプチドのオリゴアルギニンを側鎖に持つ新規高分子を創製し、経粘膜吸収促進剤としての同高分子の研究開発を進めている。中でも、生体由来のヒアルロン酸を高分子支持体として用いた生分解性のテトラグリシン-L-オクタアルギニン固定化ヒアルロン酸は、安全性に優れ、分子量数千~数万の酸性及び塩基性タンパク質医薬の経鼻投与におけるバイオアベイラビリティ(BA)を10~15%まで改善する有望な吸収促進剤である。助成初年度(平成31年度/令和元年度)、オリゴアルギニン固定化ヒアルロン酸によるタンパク質医薬のBA>50%を実現する投与ルートの開発を試みた。タンパク質医薬の経粘膜吸収は受動拡散であることから、肺や消化管など膜表面積が広い部位が吸収に有利である。中でも肺は、小腸に匹敵する表面積を持ち、肺胞上皮は薄く、消化管に比べてタンパク質分解酵素が少ないことから、バイオ医薬に適した投与部位と考えられる。オリゴアルギニン固定化ヒアルロン酸は生分解性であることから、未吸収物質の回収が困難な肺でも投与可能である。分子量が約22 kDaのソマトロピンを単独でマウスに経肺投与したところ、BAは平均で19%であった。同様のサンプルを経鼻投与したときのBAは1%に満たないことから、バイオ医薬の吸収部位としての肺の優れた特性が確認された。テトラグリシン-L-オクタアルギニン固定化ヒアルロン酸と共投与することにより、ソマトロピンのBAは平均で46%となり、単独投与群に比べて有意に上昇した。また、経鼻投与と比較して、テトラグリシン-L-オクタアルギニン固定化ヒアルロン酸はより少量で吸収促進効果を示した。厳密には目標値(BA>50%)を超えていないが、今後、オリゴアルギニン固定化ヒアルロン酸の化学構造の最適化を通して、目標を達成できる十分な見込みが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ここまで計画通りに研究は進んできたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、令和2年2月下旬以降、研究を中断している。現在、論文や外部研究費の申請書の作成をテレワークで行っている。
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今後の研究の推進方策 |
研究再開後は、まず、ソマトロピンをモデルタンパク質として用いて、アルギニンの鎖長や固定化率、ヒアルロン酸の分子量など、化学構造が異なるオリゴアルギニン固定化ヒアルロン酸による経肺吸収促進効果を網羅的に検証する。あわせて、マウスのみでなく、多時点採血が可能なラットでも検討し、BAを高精度に求める。 令和元年度、本技術の臨床応用を目指して、臨床医や製薬企業と討論する機会を得た。我々はこれまで、タンパク質医薬自体の高いコストを鑑みて、経粘膜的に投与されたタンパク質医薬のBAが50%を超えて初めて、その経粘膜投与型製剤の実用化が可能になると想定して研究を進めてきた。しかし、臨床医や製薬企業は、BAが高いに越したことはないものの、それは疾患、言い換えれば対象患者に依存するところも大きいとの見解を示した。例えば小児であれば、経肺あるいは経鼻投与型製剤よりも、経口あるいは口腔内に適用する製剤の方が断然好ましい。技術的なブレイクスルーを持って高いBAを実現しても、患者の利便性が劣ると、臨床的にあまり使われないケースも想定されるとの見解であった。今後は、前述の経肺投与での基礎実験に加え、経口、口腔といった利便性の高い投与ルートの開発を試みる。特に経口については、利便性と高いBAの両方が期待できることから、本技術によるバイオ医薬の経口吸収促進の可能性検証に早期に着手する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
繰越金は1000円強であり、ほぼ計画通りに予算を執行している。
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