研究課題/領域番号 |
19K07021
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研究機関 | 神戸薬科大学 |
研究代表者 |
小林 典裕 神戸薬科大学, 薬学部, 教授 (90205477)
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研究分担者 |
大山 浩之 神戸薬科大学, 薬学部, 講師 (80572966)
森田 いずみ 神戸薬科大学, 薬学部, 講師 (20299085)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 診断薬 / 抗体 / 一本鎖Fvフラグメント / 遺伝子工学 / ファージ提示 |
研究実績の概要 |
診断用抗体は、現在主にハイブリドーマ法で調製されているが、その抗原結合能に制約があるため、遺伝子操作による改変抗体の創製に期待が寄せられている。天然型抗体を一本鎖Fvフラグメント (scFv) に変換したのち可変部に様々な変異を導入し、生じる多様な変異体の分子集団 (ライブラリー) の中から改良分子種を「パンニング」により選択・単離するものである。その効率を高めるために、抗体を繊維状ファージ粒子の表面に発現させるファージ提示法が活用される。しかし、現状では必ずしも好結果が得られず、選択法の抜本的な改革が急務と思われた。そこで、新規な選択法としてコロニーアレイプロファイリング (CAP) 法を独自に開発し、希少な改良型抗体提示ファージを網羅的に単離する道を開いた。すなわち、変異scFv遺伝子群を大腸菌に導入し、寒天培地上に生育したコロニーを、個別に、あらかじめ培地を分注した抗原固定化マイクロプレートに移して培養し、scFv提示ファージを産生させる。生成したファージのscFvが目的の抗原に十分な親和力を持つならば、ファージは固定化された抗原を介してプレート上に捕捉されるが、これをルシフェラーゼ融合抗ファージscFvを用いて高感度に検出する。強い発光を示したウェルからファージを回収し、提示されているscFvの抗原結合能を精査する。当選択法の諸条件を確定し、モデル系としてコルチゾールに対する変異scFvのライブラリーの検索に適用したところ、次項に記載のように予想以上の好結果を得た。以上の成果は、既に2編の原著論文 (下記1、2) として発表した。また、その一部については特許化を進めている。 1) Kiguchi Y. et al., Sci. Rep., 10, 14103 (2020). 2) Kiguchi Y. et al., Sci. Rep., 11, 8201 (2021).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記のように、CAP法の諸条件を確立し、コルチゾールに対する変異scFvのライブラリーの検索に適用したところ、良好な結果を得た。すなわち、ライブラリー (約3×10E5 クローンから成る) の3%をCAP法に付したところ、その結合定数 Ka が野生型scFvのKa [3.8×10E8 (1/M) ] より16-37倍も改善された高親和力変異scFvが計5種も得られた。対照実験として同一ライブラリーの100%を従来のパンニング (念のため6重実験) に付したが、得られた変異体の親和力 (Ka) 改善は最大でも5倍に過ぎず、CAP法による変異体が明らかに優れていた。CAP法由来のscFvを用いてコルチゾールの競合ELISAを行ったところ、大幅な高感度化 (50%置換値で11-25倍) が達成され、診断薬としての実用性についても満足のいく結果であった。これに対してパンニングにより得られた変異体のもたらす感度の上昇は、評価に耐えないものであった。さらに、本検索研究において、予想外の収穫が得られた。すなわち、scFv分子のうち、H鎖可変部 (VH)ドメインの枠組み配列1 (FR1; N末端の1-30番アミノ酸から成る領域) におけるごく少数のアミノ酸置換あるいは挿入が Kaの顕著な増大をもたらすことが示された。CAP法の選択精度ゆえに得られた新知見であり、FR1がCDRと同等かそれ以上に有効な変異標的部位、「ホットスポット」である可能性が示唆された。そこで、FR1にアミノ酸のランダムな置換あるいは挿入を加えたライブラリーを新たに構築し、CAP法で検索したところ、Kaが17-31倍も改善された高親和力変異scFvが計21種も得られた。現在、FR1を標的とする変異導入の効果についての一般性が認められるか、検証を進めつつある。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、改良型変異scFvの探索におけるCAP法の有用性が如実に示された。今後、次の2点に研究の目標を絞る。 (1) CAP法の改良:CAP法は、現状では96ウェルプレートを用いた用手法で作業を行っているため、一度に検索が可能なクローンは10,000が上限である。本法のクローン処理能力を高めるために、全自動化が可能な工程への変更を工夫する。 (2) 新たな「ホットスポット」の探索:CAP法の探索精度を活かして、抗体の機能改変に有効な変異導入領域を探索する。従来、抗体の親和力・特異性の発現には、VHの相補性決定部3 (CDR3: 95-102番アミノ酸から成り、抗体間のアミノ酸組成の変化が最も激しい) が最も重要な役割を演じる、とされてきた。しかし、既に特定の抗原に対する結合能をもつ動物由来の抗体のCDR3へ変異を導入すると、むしろ結合特性を損なうことが多かった。この結果は、従来のパンニングを基盤とする探索法の限界に起因している可能性が高い。そこで我々は、CDR3を構成するアミノ酸に体系的かつ網羅的な置換を施して変異ライブラリーを構築し、CAP法で親和性成熟変異体を探索することを企画している。得られる結果から、CDR3の「結合特性改善における真の潜在力」を評価することができるものと期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で実験の一部を2021年度に実施するため、必要な消耗品等を2021年度に購入し有効に利用するため
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