研究課題/領域番号 |
19K07025
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
津元 裕樹 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (00409385)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 質量分析 / 糖鎖 / 糖ペプチド / シアル酸 / 誘導体化 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、タンパク質の糖鎖修飾に含まれるシアル酸の結合様式まで容易に区別する質量分析法(MS)を基盤とする新規なシアリル化糖鎖・糖ペプチド解析法の開発と応用研究である。 (A) 新規シアリル化糖鎖解析法の開発:研究代表者はこれまでの研究において、シアル酸の誘導体化とMALDI-MSを組み合わせたヒト血漿タンパク質のN-結合型糖鎖解析法を構築した。2019年度は、MALDI-MS用に調製したサンプルでもナノLC-ESI-MS(/MS)を用いで分析できるようにするため、ナノLC分離およびESI-MS分析条件の検討を行い、分離・分析条件を最適化した。 (B) 新規シアリル化糖ペプチド解析法の開発:2019年度は、ヒト血漿由来の精製タンパク質およびヒトプール血漿を用いて糖ペプチド解析法の開発を行った。タンパク質の還元、アルキル化、酵素消化、アミノ基の保護、シアル酸の誘導体化、糖ペプチド精製条件などの前処理法を確立した。誘導体化されたペプチド混合物をナノLC-ESI-MS/MSを用いて分析し、データベース検索により誘導体化シアル酸を含む糖ペプチドを同定・定量できる分析系を構築した。また、誘導体化されたN-結合型糖鎖においてもN-グリコシダーゼ処理によりN-結合型糖鎖を切断できることを実証した。これにより、本分析法は網羅的なO-結合型糖ペプチド解析にも利用できる可能性が示唆された。ヒトプール血漿を用いた検討では、N-結合型糖ペプチドの同定数を向上させるため、親水性相互作用クロマトグラフィーによる糖ペプチド精製条件を最適化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(A) 新規シアリル化糖鎖解析法の開発:N-結合型糖鎖解析では、MALDI-MSおよび多変量解析を用いた研究代表者のこれまでの研究により、70、80、90歳群と比較して超百寿者と呼ばれる105歳以上の高齢者群に特徴的なN-結合型糖鎖を同定した。本研究では、別の分析法による検証として、同一サンプルを用いてLC-ESI-MS(/MS)による分析を行い、抽出イオンクロマトグラムのピーク面積から同様の結果が得られることを明らかにした。これにより、同定したN-結合型糖鎖の増加が健康長寿に関与している可能性が示唆された。また、より高感度な分析系に発展させるために必要となる糖鎖のプロファイルを取得した。 (B) 新規シアリル化糖ペプチド解析法の開発:糖ペプチド解析では、N-およびO-結合型糖鎖を有するヒト血漿由来タンパク質で本解析法の有用性を明らかにした。ヒトプール血漿においてはシアル酸の結合様式まで区別して、約40のタンパク質から約300のN-結合型糖ペプチドの同定に成功した。また、N-結合型糖鎖解析により同定された特徴的な糖鎖を含むタンパク質とその付加部位を同定することができた。 以上の理由より、シアリル化糖鎖・糖ペプチド解析法の基盤はほぼ構築でき、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
開発した解析法の応用として、コホート検体の解析を進める。 (A) 新規シアリル化糖鎖解析法の開発:N-結合型糖鎖解析においては、多価イオンが生成されやすいというESIの特徴を利用し、MALDI-MSでは検出できなかったより大きな糖鎖に着目した解析を進める。また、質量分析装置の特性を利用し、より高感度な糖鎖定量法の構築を進めていく予定である。 (B) 新規シアリル化糖ペプチド解析法の開発:糖ペプチド解析では、N-結合型糖鎖解析で用いたコホート検体の解析を進め、超百寿者群に特徴的な糖鎖を含むタンパク質と付加部位を同定し、その糖鎖の加齢による変化を明らかにする。これまでの血漿タンパク質に含まれるN-結合型糖鎖全体の解析から、特定のタンパク質の部位特異的な糖鎖解析へと進展させ、より信頼性の高い健康長寿マーカーの探索研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた学会発表や英文校閲料の支出がなかったため。 次年度の物品費に計上して消耗品の購入に使用する。
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