研究課題
本研究では、タンパク質の糖鎖修飾に含まれるシアル酸結合様式(α2,3-結合およびα2,6-結合)まで区別する質量分析法(MS)を基盤とする新規シアリル化糖鎖・糖ペプチド解析法を開発し、ヒト血漿タンパク質に応用して加齢に伴う糖鎖構造変化を明らかにすることを目的とする。本年度は、網羅的なN-およびO-結合型糖ペプチド解析を行うため、ヒト血漿をサンプルとして用い、(1)前処理法、(2)液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS)分析条件、(3)再現性の検討を行った。前処理法では、アミド基結合担体を用いたスピンカラムを用い、親水性相互作用クロマトグラフィーによる糖ペプチド濃縮条件をN-およびO-結合型糖ペプチドについて最適化した。LC-MS/MS分析条件では、注入量、分析時間、コリジョンエネルギーについて検討し、N-結合型糖ペプチドの同定数から分析条件を最適化した。再現性では、同じヒト血漿を用い、前処理からLC-MS/MS分析までの実験を繰り返し行い、糖ペプチドの同定数およびピークエリアから再現性が高いことを確認した。これらの検討により、網羅的で再現性の高い新規シアリル化糖ペプチド解析法を確立した。同定されたN-結合型糖ペプチドについてタンパク質修飾部位における糖鎖プロファイルを解析した結果、同じ糖鎖組成であってもα2,3-とα2,6-結合シアル酸の割合はタンパク質や修飾部位において異なることがわかった。このことは、シアル酸が関与するタンパク質機能解析やバイマーカー探索において、シアル酸結合様式まで区別して解析することの重要性を示唆している。また、超百寿者群および70歳群(各20検体)の血漿N-結合型糖ペプチド解析を行ない、超百寿者群で増加・減少する糖ペプチドを同定した。このことは、特定のタンパク質の糖鎖修飾変化が健康長寿のバイオマーカーとなる可能性を示唆している。
2: おおむね順調に進展している
ヒト血漿をサンプルとして用い、網羅的で再現性の高い新規シアリル化糖ペプチド解析法を確立した。また、確立した解析法を横断的コホート研究で収集されたヒト血漿へ応用し、超百寿者群および70歳高齢者群(各群20例)を用いたN-結合型糖ペプチド解析が完了した。以上より、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
コホート検体の解析により、ヒトの健康長寿モデルと考えられている超百寿者群で増加あるいは減少する糖ペプチドを同定した。今後は、これらの糖ペプチドに対して高感度かつスループット性の高い質量分析法を基盤とする定量分析系を構築する。構築した分析法を用い、これまでの探索研究で得られた結果をより多くのコホート検体を用いて検証する。それにより、信頼性の高い健康長寿マーカー開発を推進する。
予定していた学会発表や英文校閲料の支出がなかったため。次年度の物品費に計上して消耗品の購入に使用する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件)
生化学
巻: 92 ページ: 343~348
10.14952/SEIKAGAKU.2020.920343