前年度の検討結果から、WT1ペプチドを溶液として鼻腔内投与することにより、WT1ペプチドが頸部リンパ節に直接送達されることが示されたため、マウス(C57BL/6)鼻腔内投与後の免疫誘導に関する評価をサイトカインの血清及び頸部リンパ節中レベルの上昇を指標に検討した。その結果、血清中のインターフェロンγレベルの上昇傾向が確認されたものの、対照群の静脈内投与後のレベルと比較して有意ではなく、その他IL4やIL12の血清レベルについては対照群と同程度であった。また、頸部リンパ節中の各サイトカインレベルは対照群と同程度であった。 より強力に免疫を誘導するためには、WT1ペプチドの膜透過量及び頸部リンパ節移行量を増大させる必要があり、鼻粘膜表面濃度の高濃度化が可能な粉末状での鼻腔内投与によるモデルペプチドの頸部リンパ節移行量の増大の可能性について検討した。水溶性モデルのoxtocinでは、粉末投与により頸部リンパ節移行量が溶液投与に比べて約6倍増大することが示され、同じ水溶性ペプチドであるWT1ペプチドにも同様の粉末投与が適用可能と判断した。この結果に基づきWT1ペプチドの粉末を鼻腔内投与した結果、頸部リンパ節内WT1ペプチド濃度の時間推移より算出した血中濃度時間曲線下面積及び頸部リンパ節内濃度時間曲線下面積は溶液投与に比べて20倍以上の極めて高い値を示した。Oxtocinと同様に、高い水溶性を有するWT1ペプチドは、水分量の少ない鼻腔内でも十分に溶解するため、粉末の多量投与が有効であることが示された。 本研究により、WT1ペプチド粉末の鼻腔内投与が強力ながん免疫を誘導する可能性を見出すことができた。
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