研究課題/領域番号 |
19K07035
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研究機関 | 神戸薬科大学 |
研究代表者 |
奥田 健介 神戸薬科大学, 薬学部, 教授 (00311796)
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研究分担者 |
高木 晃 神戸薬科大学, 薬学部, 助教 (00758980)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 亜鉛 / 代謝 / 病態 / 蛍光プローブ / 銅 / 還元的環境 |
研究実績の概要 |
近年、がんをはじめとする病態時における銅(I)イオンの挙動が注目を集めている。このような生体における銅(I)イオンの役割を解析するツールとして種々の蛍光プローブが開発されてきたが、これらプローブの多くがホスト・ゲスト相互作用に基づくリガンド型蛍光プローブであるために細胞内銅(I)イオンシグナルに干渉する。また、化学反応に基づく発蛍光型プローブも開発されては来たが、これらは酸化的切断反応にもとづき酸素分子を必要とするため、がん微小環境に代表される低酸素環境では感度が低下する。 そこで本研究では分析対象を高感度に検出可能な化学反応として、酸化的切断反応ではなく加水分解反応に着目した。プローブに銅(I)イオン特異性・親和性の高い配位子構造を組み込み、所望の錯体を形成後に銅(I)イオンに配位して活性化された水和水によりβ-lactamが加水分解されて発蛍光反応が進行するような化合物を設計・合成して評価を行い、銅(II)イオンに応答して蛍光を生じる化合物を見出した。引き続いて構造展開を行う過程で、当初の目的の銅(I)イオンではなく、新規な亜鉛イオン蛍光プローブの創製にいたった。本プローブは、市販されている既存のリガンド型蛍光プローブよりも高感度であり、高濃度のグルタチオンを含む細胞内夾雑系においても感度良く亜鉛イオンを検出することができた。 ついで、上述の亜鉛蛍光プローブの配位子部位に関して銅イオンに親和性の高い構造に変換することにより、銅イオン特異的に発蛍光応答する分子を見出すことに成功した。本プローブにおいても既存のリガンド型銅イオン蛍光プローブよりも感度は高く、グルタチオンによる蛍光応答への干渉に関しても、既存のリガンド型銅イオン蛍光プローブよりも耐えられることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度(2019年度)においては、銅(II)イオンとの錯体形成の後に化学反応が進行して蛍光団を放出して蛍光を生じる化合物を見出した。さらに選択性の向上を目指して構造展開を行ったところ、細胞内夾雑系において有用な亜鉛イオン選択的な高感度蛍光プローブの創製に至った。 生体内で亜鉛イオンはDNAポリメラーゼやアルカリホスファターゼなど様々な生命現象を司る酵素の活性中心に利用される必須微量元素である。さらに亜鉛イオンは、神経細胞間でのシグナル伝達やヒスタミン分泌などに関連するメッセンジャーとしても知られ、糖尿病やアルツハイマー病、がんの進展など様々な病態に関わっていることも明らかとなっている。そのため、生細胞や生組織中において亜鉛イオンを高感度・選択的に検知できかつ濃度変化を鋭敏に検知できる蛍光プローブを開発することができれば、亜鉛イオンが関与する病態や生命現象の研究、医薬品開発などにおいて非常に重要な手法となる。本プローブは、既存の蛍光プローブでは検出することができない低濃度域での亜鉛イオンの挙動解析を必要とする医学薬学研究での解析ツールとして利用でき、広く亜鉛イオンが関わる疾病の治療薬開発研究に寄与することが期待される。 ついで本年度(2020年度)においては、当初の目的である細胞内夾雑系において有用な銅(I)イオンの高感度蛍光プローブの創製をめざした。上述の亜鉛イオン蛍光プローブの配位子部位に関して銅イオンに親和性の高い構造に変換することにより、銅イオン特異的に発蛍光応答する分子を見出すことに成功した。さらに配位子部位の構造活性相関を検討したところ、発蛍光反応に関しては配位子部位の銅イオンへの親和性の点で適切な値があることを明らかにした。すでに、銅イオン選択性や特異性、反応速度論に関する緩衝液中での評価などは完了している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画を多少変更し、以下のように亜鉛イオン及び銅イオン蛍光小分子イメージングプローブの開発を最終年度(2021年度)に推進する。 1.銅イオン蛍光プローブの培養細胞系での評価:開発した銅イオン蛍光プローブの緩衝液中での評価はすでに完了している。そこで、in vitro培養細胞系での銅イオン検出実験に本プローブを適応し、細胞内夾雑系における本プローブによる検出の妥当性を評価する。細胞膜透過性・毒性(WST-8 assayおよびLDH assay)などに問題が認められた場合には、適宜物理化学的なパラメータを考慮した誘導体化を行うことによってプローブの性能向上を図る。 2.細胞内小器官局在性を付与した蛍光プローブの開発:さらに、これまでの研究過程にて選抜された化合物をもとに、細胞内小器官局在性を付与した第2世代のプローブの設計・合成を行う。続いて、亜鉛イオンないし銅イオンとの反応性を評価し、その結果をもプローブデザインにフィードバックさせ、望ましい性質を有する誘導体を選抜する。次いでin vitro培養細胞系に適応し、亜鉛イオンないし銅イオンとの反応性および細胞内小器官への移行性の評価を行いプローブの妥当性を検証する。毒性あるいは細胞内移行性などに問題が認められた場合には、適宜物理化学的なパラメータを考慮した誘導体化を行うことによってプローブの性能向上を図り、分子の最適化を行う。 3.マルチカラーイメージングプローブへの展開:他の小分子生理活性物質とのクロストークを明らかにできるようなマルチカラーイメージングへの展開を見据えて様々な励起・蛍光波長を有する各種蛍光団を有するプローブの設計・合成を行う。合成が完了次第上述の評価系にて検討し、同様に分子の最適化を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
894,427円と次年度に繰り越し金が生じた状況としては、本年度に当科学研究費補助事業(学術研究助成基金助成金)で支出を予定していた小額機器類や試薬などの消耗品費を他の経費で賄うことができた。そのうえ、予定していた学会報告がCOVID-19の蔓延により中止となったため、計上していた旅費を執行するに至らずに、次年度使用額が生じた次第である。計画変更に伴って試薬や機器の購入時期を変更しており、次年度以降に試薬など消耗品の購入を一括して行うことで安価に試薬類を購入できると考えている。
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