研究課題
本研究は、脂質ナノ粒子を種々作製し、細胞内取り込み後の、エンドソーム膜との融合、内包薬物の放出メカニズムを脂質ナノ粒子の物性に着目して解析するとともに、これらの動的過程を決定づける、脂質ナノ粒子側の重要な物性を探ることを目的としている。昨年度、脂質ナノ粒子がエンドソーム膜と融合し内包物を細胞質内に放出するために、pH応答性脂質に由来する粒子表面の正電荷が有用な駆動力となることが示唆された。しかし、脂質ナノ粒子膜とエンドソーム膜との相互作用の詳細なメカニズムについては不明な点が多いため、本年度はエンドソーム内の環境変化に伴うナノ粒子膜の物理化学的特性変化についてさらに詳細に調べた。昨年度の検討をもとに、膜融合性を有するリン脂質、コレステロール、PEG脂質、pH応答性脂質を用い、脂質ナノ粒子を調製した。pHの低下に伴い、脂質ナノ粒子の粒子径増大が観察された。また、中性緩衝液中では負電荷を帯びていたナノ粒子がpHの低下に伴い正電荷に変化することをゼータ電位により確認した。これは、脂質ナノ粒子に含まれるpH応答性脂質によるものと考えられる。一方、pH低下に伴う膜流動性の増加は、緩衝液中の塩化ナトリウム濃度の低下により増大したため、正に荷電した脂質間で生じた静電的反発が膜流動性増加の一要因であることが支持された。さらに、脂質ナノ粒子をエンドソーム膜モデルのマウス赤血球と混合した際の溶血率は、pH低下及びpH応答性脂質含量の増加に伴い増加したことから、本研究で作製した脂質ナノ粒子がエンドソーム膜との膜融合機能を有していることが示唆された。pH応答性脂質量を最適化した脂質ナノ粒子は細胞毒性を認めず、かつ市販のsiRNA導入ナノ粒子と比較し、siRNAによるβ-ガラクトシダーゼ活性の抑制効果の増加が得られた。
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