研究課題/領域番号 |
19K07041
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究 |
研究代表者 |
矢木 真穂 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 助教 (40608999)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アミロイド線維 / アミロイドβ / 低温大気圧プラズマ / 微小重力環境 / 国際宇宙ステーション |
研究実績の概要 |
国際宇宙ステーションはこれまで地上では制御できなかった重力による影響を取り除くことができるため、アミロイド線維の形成メカニズムを研究するうえで理想的な実験環境を提供する。昨年度に引き続き、微小重力環境がアミロイドβの線維形成に与える影響を調べるため、微小重力環境下において形成したアミロイド線維の構造解析を進めた。クライオ電子顕微鏡法を用いてアミロイド線維の形態を詳しく調べた結果、微小重力下で形成したアミロイド線維は大きく分けて2つの構造をとっていることが判明した。そのうち1つは地上で形成したアミロイド線維に形態が類似していたが、もう1つは地上ではみとめられない特徴的な構造であることが明らかとなった。これらの結果から、微小重力環境においては、アミロイド線維は対流や沈殿の影響を受けずにゆっくりと伸長して地上とは異なる構造になることが示唆された。一方、環境摂動要因の1つとして低温大気圧プラズマを照射した際のアミロイドβの構造変化およびアミロイド線維形成への影響を調べたところ、35位のメチオニン残基が特異的に酸化され、アミロイドβのアミロイド線維形成の阻害を引き起こすことが明らかとなった。プラズマ照射によって生成した過酸化水素が線維形成阻害を担っていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
微小重力環境下で形成したアミロイド線維の構造解析を行い、アミロイド線維形成に対する溶液内ミクロ環境の揺らぎの影響を考察することができた。固体NMRおよびクライオ電子顕微鏡を用いたより精密な構造解析は継続中である。また低温大気圧プラズマ照射により溶液環境に摂動を与えた際のアミロイド線維形成阻害効果に関しても新たな知見を得ることができた。さらに、溶液-膜界面での空間限定の効果を明らかにするため、膜界面に結合したアミロイドβの構造解析も進めている。以上の点に鑑みて、現在までの研究はおおむね順調に進捗しているものと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
タンパク質を取り巻く様々な環境因子を考慮した統合的な構造解析を実施し、タンパク質の分子間相互作用から線維形成に至るプロセスに及ぼす影響を体系的に明らかにし、アミロイド形成機構の真の解明を目指す。引き続き、微小重力環境下で形成したアミロイド線維の精密構造解析を進めるとともに、膜界面に補足されたアミロイドβに関して、固体NMR解析および分子動力学計算を実施し、アミロイドβの分子会合に対する溶液-膜界面での空間限定の効果を明らかにする。さらに、膜成分や相互作用分子との特異的・非特異的相互作用を考慮した構造解析へと研究を展開し、環境因子がアミロイド形成に与える影響を詳細に検討して分子会合機構の実態解明を目指す。
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