研究課題/領域番号 |
19K07042
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
三木 寿美 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 特任研究員 (00632499)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | PLA2 / 脂質 / 腸内細菌 / 癌 / アレルギー / 免疫 / 炎症 / リポクオリティ |
研究実績の概要 |
ホスホリパーゼA2 (PLA2) はリン脂質代謝のボトルネック酵素であり、分泌型PLA2 (sPLA2) 群の欠損マウスの表現型のほとんどは、各酵素が発現している組織で確認される。例外的に我々は、腸管固有のsPLA2-IIAの欠損が腸管ではなく遠隔組織 (皮膚) でアレルギー・癌などの表現型を示すことを見出しており、sPLA2-IIAのリン脂質分解作用が腸内細菌叢に直接影響し、これが二次的に遠隔組織の表現型に波及している可能性を想定した。本研究では、sPLA2-IIAの欠損による腸内細菌叢の変容と遠隔組織の疾患の表現型解析をベースとして、本酵素により制御される腸内細菌と細菌代謝物の同定と、それに基づいた疾患メカニズムを解明し、マイクロバイオームの新規制御因子としてのsPLA2の定義を確立することを目的とする。 我々はこれまでに以下のことを見出している。(1) sPLA2-IIA欠損マウスでは、皮膚化学発癌モデルと乾癬モデルの病態が改善し、受動皮膚アナフィラキシー応答が減弱する。(2) 欠損マウスでは特定の腸内細菌が野生型マウスと比較して属レベルで変化している。(3) これまで機能未知であった糞便中の腸内細菌固有の脂質代謝物などがsPLA2-IIAレベル依存的に変動する。本年度はこれらに加えて以下のことを見出した。(4) 共飼育により腸内細菌を共有させた野生型および欠損マウスは、上記各病態モデルの表現型の差が消失した。(5) 共飼育した野生型および欠損マウスの腸内細菌叢は、共飼育なしの欠損マウスとも野生型マウスとも異なる組成を示した。(6) 別の施設で飼育した欠損マウスは、環境の変化に伴い腸内細菌叢の組成が変化し、野生型マウスとの表現型の差が消失した。これらの結果から、sPLA2-IIA欠損マウスにおける病態モデルの表現型が腸内細菌叢の組成の変化と相関することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、野生型とsPLA2-IIA欠損マウスを共飼育し、それらのマウスに対して種々の解析を行うことで以下の成果を得た。(1) 共飼育した野生型および欠損マウスは腸内細菌叢の組成の差が見られなくなり、(2) この時の組成は共飼育していない野生型マウスや欠損マウスとも異なる変動を示し、(3) 共飼育なしで差が見られていた各病態モデルの表現型の差が消失した。また、(4) 野生型および欠損マウスを別の施設で飼育すると、飼育環境の変化により腸内細菌叢の組成が変化し、(5) 共飼育することなく野生型マウスとの表現型の差が消失した。これらの結果から、sPLA2-IIA欠損マウスにおける病態モデルの表現型は腸内細菌叢の組成の変化に起因することが明らかとなった。 新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)に対する感染防止措置により研究活動が制限される事態下ではあるが、現在、本成果について論文投稿中であり、進捗状況としてはおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究に対する発展的な観点から以下の項目を重点的に推進する。 [1] sPLA2-IIAの欠損の影響を受けることが明らかとなった特定の細菌種を用いて、以下の手法によりマウスの腸内細菌叢を人為的に操作することで、疾患モデルの表現型が腸内細菌叢の変容に依存的であることを証明する。(1) 抗生物質投与:異なる抗菌スペクトルをもつ抗生物質を併用して腸内細菌叢を撹乱する。(2) 無菌マウス:腸内細菌を持たない無菌マウスに特定の細菌種を移植して腸内細菌叢を修飾する。 [2] sPLA2-IIA依存的に変動した脂質代謝物をマウスに投与してアレルギー応答などの表現型を評価するとともに、マストセルに添加した際の効果を検討することで直接的な作用メカニズムを解明する。さらに、アレルギーや乾癬および癌などの欠損マウスと野生型マウスとで表現型に違いが見られた病態に関して、プレ/プロバイオティクスの観点から各疾患の治療および予防効果について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)に対する所属研究機関の感染防止措置により研究活動が大幅に制限される事態となったことから、予定していた規模での実験を行うことが難しく、使用予定であった各種消耗品の購入額が減少した。次年度は研究活への影響は最小限にとどめる方針であることから、以降に計画している内容を遂行するには差し支えなく、計画していた各使用内訳に変更はないものとする。 次年度使用額 (979,669円) の使用計画は、消耗品費として以下の通りとする。薬品・試薬類としては、遺伝子関連試薬 [遺伝子工学用酵素 (50千円×8)、PCRプライマー (2千円×20)]、細胞培養試薬 [培地 (1千円×2)、刺激剤 (30千円×2)]、免疫化学関連試薬 [抗体 (30千円×2)、染色用試薬 (10千円×2)]、質量分析関連試薬 [液体クロマトグラフィー関連器具 (20千円×4)、展開溶媒 (10千円×20)] などの購入を見込み計上する。ガラス器具・プラスチック器具類としては、細胞培養ディッシュ (20千円×2)、遠心管 (20千円×2)、マイクロプレート (20千円×2) などの購入を見込み計上する。
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