研究課題/領域番号 |
19K07049
|
研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
伊左治 知弥 東北医科薬科大学, 薬学部, 講師 (80433514)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 糖鎖 / インテグリン / シアル酸 / PI4KIIα |
研究実績の概要 |
N-型糖鎖は蛋白質の安定性や輸送・機能を制御する。なかでもシアリル化糖鎖は癌の転移やウィルス感染症などの疾患に深く関わっている。申請者は糖鎖の生合成の制御因子を探索し、癌で増加するGolgi phosphoprotein 3 (GOLPH3)がシアル酸転移酵素をゴルジ体に係留させることで、シアリル化糖鎖の生合成を増加させることを明らかにした(Isaji T. JBC 2014)。さらに上流の調節因子として、GOLPH3が結合するフォスフォイノシトール4リン酸(PI4P)を産生するPI4KIIαとインテグリンα3を見いだし、90年代に報告されているPI4KIIαとインテグリンα3の複合体が、シアリル化糖鎖の生合成に重要であることが示唆された。この新しく見いだした調節機構に注目して、α3とPI4KIIαの相互作用、糖転移酵素の局在、ゴルジ体のpHおよびN-型糖鎖構造を解析することで、どのようにα3が糖鎖の生合成を調節するのか、シアリル化糖鎖の新たな制御機構を明らかにする。当該年度において、PI4KIIαとインテグリンα3の特異性を明らかにした。また、糖鎖構造を詳細に解析することで、この複合体はN-型糖鎖に特異的に影響を及ぼすことが分かった。PI4KIIαとインテグリンα3αの複合体に加えて、細胞間接着分子であるEpCAMとインテグリンβ1の複合体についても見いだした。興味深いことに、細胞間の接着分子EpCAMの遺伝子欠損によってインテグリンβ1の細胞表面の発現量と糖鎖が変化することから、この複合も糖鎖合成に関わる可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
選別輸送やシグナル伝達の調節などPI4Kの多岐にわたる機能が研究されている。一方、PI4KサブタイプであるPI4KIIIβが複合型糖鎖の生合成に関わることが報告されているが、PI4Kやその産物であるPI4Pがどのように糖鎖を制御するのかほとんど分かっていない。本課題ではインテグリンα3とPI4KIIαの相互作用の特異性を解析するためにα3およびα5の結合実験を行い、PI4KIIαとインテグリンは高い特性があることがわかった。また、α5の遺伝子欠損ではシアリル化糖鎖の大きな変化を認めなかった。興味深いことに、インテグリンα3とα5は細胞内のゴルジ体近辺では全く異なる局在を示すことがわかり、PI4KIIαとの結合の高い特異性が裏付けられた。さらに、α3欠失細胞とPI4KIIαの遺伝子抑制細胞の糖鎖構造解析から糖鎖の変化はO-型糖鎖ではなく、主にN-型糖鎖の変化であることが明らかになった。
|
今後の研究の推進方策 |
これまで明らかになった知見に基づき、引き続きα3がどのように糖鎖を制御するか明らかにして、糖鎖の生合成の新しい制御機構とその意義を解明する。 (1)シアリル化糖鎖を生合成する糖転移酵素(例えば、シアル酸転移酵素ST6Gal-1やST3Gal-4)の局在変化を観察する。一方、α3は細胞表面に発現しているため、特異的な細胞外マトリックス(ECM)であるLaminin-332や特異抗体P1B5でα3を細胞外から活性化・阻害することで、細胞表面のα3からの刺激による、PI4P、GOLPH3および糖転移酵素の局在変化を検討する (2)α3欠失細胞やPI4KIIαの発現抑制細胞にpH感受性のある蛍光蛋白質pHluorinを導入し、シス、メディアル、トランスゴルジおよび小胞体におけるpHを共焦点レーザー顕微鏡で測定することで、α3の複合体を介した糖鎖構造の制御はpH変化による調節が関与するのかを明らかにする。 (3)ヒトメタニューモウイルス(hMPV)を上気道モデル細胞であるBEAS-2Bに感染させる際、ウィルスの感染や増幅についてリアルタイムPCRを用いてα3の欠失やPI4KIIαの阻害剤(PI-273)、α3の阻害抗体P1B5によって糖鎖を低下させた場合と上気道細胞で高発現しているシアル酸転移酵素の欠失によって糖鎖を低下させた場合を比較検討する。α3からの糖鎖構造の制御が、ウィルスに対する感受性に与える影響について検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していた、プラスミド精製キットの購入費が少なく済んだため。また謝金が不要であったため。
|