研究課題/領域番号 |
19K07050
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
熊谷 剛 北里大学, 薬学部, 講師 (30365184)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 脂質の酸化 / 細胞死 / スフィンゴ脂質 / フェロトーシス |
研究実績の概要 |
本研究は、GPx4欠損により誘導される酸化リン脂質依存的な新規細胞死に対するSMS2の酸化リン脂質代謝活性を介した抑制機構の解明と生体における機能を実証する事を目的とし、本年度は、以下の2点の解析を中心に研究を行なった。 1)新規細胞死抑制におけるSMS2の細胞内膜局在の重要性の検討 ゴルジ体及び細胞膜に局在するSMS2のうち、どちらへの局在が新規細胞死の抑制に重要かを明らかにするために、変異体を用いて解析した。SMS2の細胞膜への局在にはC末端領域に存在する4つのシステイン残基のパルミトイル化が関わることから、この4つのシステイン残基をアラニン残基に置換した細胞膜に移行しないSMS2変異体を作製して細胞に導入し解析を行った。GPx4欠損による細胞死に対する影響を検討したところ、野生型SMS2過剰発現細胞では抑制されたのに対し、細胞膜に局在しないSMS2変異体の過剰発現では抑制されなかった。このことより、SMS2の細胞膜における局在がGPx4欠損による細胞死の抑制には重要であることが明らかとなった。 2)DAGOOHの代謝経路の解明 SMS2の過剰発現は、GPx4欠損により生じるPCOOHをceramideとDAGOOHに代謝することで細胞死を抑制していると予想されるが、その後DAGOOHがどのような経路で代謝されるのかは不明である。そこで、DAG代謝経路に関わる酵素の阻害剤を用いて、どの経路がDAGOOHの代謝に重要であるのかを検討した。既知のDAG代謝経路に関わる酵素の阻害剤を用いてGPx4欠損による細胞死に対する影響を検討したところ、各阻害剤処理によりSMS2過剰発現による細胞死の抑制効果は部分的にキャンセルされた。このことから、どれか一つの経路が重要ではなく、各経路が代謝に関わっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は4カ年計画で大きく5つの解析を行う予定である。そのうち初年度では上記の2つの解析で結果を得ることができた。残りの3つについても並行して準備および予備的な実験を進めており、そのうち、動物を用いた解析のため作成していた肝臓特異的GPx4/SMS2二重欠損マウスについてはほぼ作成が済んだ段階である。今後作成したマウスを用いて解析を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の結果より、SMS2の細胞膜における局在がGPx4欠損による細胞死の抑制に重要であることが明らかとなっている。このことから、細胞膜における酸化リン脂質の形成機序とSMS2の機能に焦点を当てて解析することで、よりスムーズに研究課題の目標を達成できると考える。 具体的には、細胞膜における酸化脂質の生成を、酸化脂質特異的な蛍光検出プローブを用いてイメージングする。また、細胞膜で生成される酸化脂質が新規細胞死の誘導には必須であることから、GPx4欠損細胞より細胞膜を単離してそこに存在する酸化脂質をLC-MS/MS解析することで、誘導に重要な酸化脂質の同定を試みる。さらに、本年度の解析ではDAGOOHの代謝経路を明確に同定することができなかった。そこで代謝酵素のうち、細胞膜に局在する分子に注目し、その分子をCRISPR/Cas9システムを用いて欠損させた細胞を構築し、より詳細な解析を行うことでどの経路が重要なのかを明確にする予定である。 一方、生体内でのSMS2の酸化脂質代謝活性を実証するため肝臓特異的GPx4/SMS2二重欠損マウスを用いて解析を行う。マウスについては本年度にほぼ作成が済んでおり、今後評価を行ってSMS2が生体でも酸化脂質を代謝する抗酸化酵素であることを実証する。
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