研究課題/領域番号 |
19K07051
|
研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
板部 洋之 昭和大学, 薬学部, 教授 (30203079)
|
研究分担者 |
澤田 直子 (笹部直子) 昭和大学, 薬学部, 助教 (50643566) [辞退]
小濱 孝士 昭和大学, 薬学部, 准教授 (60395647)
牧山 智彦 昭和大学, 薬学部, 助教 (60733102)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 酸化LDL / 酸化HDL / 動脈硬化症 / 急性心筋梗塞 / LC-MS/MS |
研究実績の概要 |
酸化変性を受けた低比重リポタンパク質(oxLDL)が動脈硬化症の発症要因であることが知られてきた。これまで当研究室では、ヒト血漿中には陰性荷電の異なる少なくとも2つのタイプのoxLDLが存在しており、特に陰性荷電に富むoxLDL画分は高頻度にHis、Lys残基が修飾されたoxHDLを伴っていることを見出した。(Sawada N, et al. J. Lipid Res. 2020,61(4):816-829)この画分は、急性心筋梗塞患者の急性期血液で有意に増加していることから、破綻した粥状動脈硬化プラークから漏出してきたものと推察される。血管壁組織でLDLの酸化変性が進む過程でHDLとの相互作用する可能性も考えられる。このような酸化変性リポタンパク質粒子の性状と形成過程を明らかにするのが、本研究の目的である。 oxHDLを伴う血漿中のoxLDLが生成される環境を想定して、HDLが共存するときのoxLDL中のoxPC、リゾPCの挙動についてLC-MS/MSを用いて検討した。安定同位体標識されたd13-リゾPCを取り込ませたLDLにHDLを添加して4hまでインキュベートすると、d13-リゾPCが経時的に減少し、d13-ジアシルPCがLDL、およびHDL両方で増加した。d13-ジアシルPCの生成は、HDLを非存在下では起こらず、またレシチン・コレステロールアシル転移酵素(LCAT)の阻害剤で抑制された。d13-標識oxPCを取り込ませたLDLでは、Lp-PLA2阻害剤を加えないと1時間以内にPGPCが破壊された。LDLの酸化により生じた酸化PCはその多くが酵素的に加水分解されてリゾPCとなるが、このリゾPCはHDLに移行しLCATによって再アシル化され、LDL粒子中のoxPCが処理される経路があることが分かった。このように、リポタンパク粒子間で、非酵素的相互作用及び酵素的代謝が容易に進行し、生体内oxLDLの形成過程にも関わっているものと考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
血漿中のoxLDLではoxHDLを伴う独特の画分が生成されていたことから、HDLが共存するときのoxLDL中のoxPC、リゾPCの挙動について安定同位体標識脂質とLC-MS/MSを用いて検討した。コリン部分の水素原子13個が重水素置換されたd13-リゾPCを取り込ませたLDLを用いて、LDL上のリゾPCがHDL粒子に移行し更に酵素的に再アシル化されて、取り除かれる経路の存在が証明された。短鎖型oxPCやリゾPCの粒子間移行能が非常に高いこと、LDL及びHDL上に存在する酵素がこれらの脂質に大きく関わっていることが示され、、生体内oxLDLの形成過程には必要な要因である可能性が示唆された。ここまでの成果をまとめ、論文として公表することができた。(Sawada N, et al. Antioxidants. 2020,9:1045) 当研究室では、硫酸銅処理したoxLDLがHL-60細胞由来好中球のネトーシスを促進する作用を持つことを見出している。ネトーシスは、好中球が自身のクロマチンを脱凝縮し細胞外にDNA鎖を放出する細胞死である。好中球のもつ抗菌作用の仕組みであると同時に、組織局所の炎症を引き起こす一因ともなる。ヒト血漿から分離したLDL(-)画分の好中球への作用を検討したが、予備的な検討の段階であるが、ここまでの所LDL(―)画分にネトーシス増強作用は認められていないが、もう少し検討を続けたい。
|
今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、ヒト血漿中のoxLDLの候補とも考えられていた小型低密度LDL(sdLDL)が、本研究で検討している陰性荷電と共通性を持つのかどうかを検討する。sdLDLは心血管疾患患者で高値となることが知られており、酸化変性を受け易いのではないかと議論されていたが、詳しい解析はまだ報告されていない。sdLDLは、Hiranoらの報告(Hirano, et al. JAT 2005, 12:65)に従って、血漿にヘパリンとMnイオンを添加してapoB含有リポタンパク質を沈殿させた上清に残存しているLDLとして回収できる。そのようにして分け取ったsdLDLの電気陰性度、脂質分子種組成、apoBの酸化修飾状態などを解析する。 また、HDLを種々の条件で酸化した時の酸化修飾の構造、さらにHDLとLDLの共存下での酸化修飾したとき、HDLをoxLDLとインキュベートしたときの修飾構造の変化と比較検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度末に433円の残額が生じた。目的に沿った有効利用に努めるため、繰り越して令和3年度の研究費と併せて物品費(試薬等の消耗品)使用させて頂きたい。
|