研究実績の概要 |
酸化変性を受けたLDL(oxLDL)が動脈硬化症の発症要因であることが知られてきた。本研究では、ヒト血漿中には陰性荷電の異なる少なくとも2つのタイプのoxLDLが存在しており、特に陰性荷電に富むoxLDL画分は高頻度にHis、Lys残基が修飾されたoxHDLを伴っていることを明らかにした。(Sawada N, et al. J. Lipid Res. 2020,61:816-829)この画分は、急性心筋梗塞患者の急性期血液で有意に増加しており、破綻した粥状硬化プラークから漏出してきたものと推察される。血管壁組織でLDLの酸化変性が進む過程でHDLとの相互作用する可能性も考えられる。 好中球細胞外トラップ(NETs)は細胞外にDNAが放出される新しい細胞死である。近年、血管内でもNETs形成起こることが明らかにされ、心血管疾患の発表要因の一つと注目されている。当研究室では、oxLDLが好中球のNETs形成を有意に増強することを見出している。(Obama T, et al. Front. Immun. 2019, 10:1899)そこで、HDLとoxLDLの相互作用により、NETs形成増強作用はどのような影響を受けるか検討した。ヒト前骨髄性白血病細胞株HL-60をall-trans-レチノイン酸とともに培養して好中球に分化させ、PMAで刺激すると2時間後には培養上清にDNAが放出される。このPMA添加時にoxLDLを共存させておくと、DNAの放出は2~3倍に増強された。oxLDLにHDLト混和して37℃4時間インキュベートした後に好中球に添加してPMA刺激したところ、oxLDLによるNETs形成増強作用が、約50%抑制された。このHDLの効果は用量依存的であったが、oxLDLとHDLを0℃1hインキュベートした場合には効果が得られなかった。 HDLの抗動脈硬化作用は、抗酸化作用あるいはコレステロールの汲み出し作用などが多くの研究室で調べられてきた。今回、本研究ではHDLはoxLDLのNETs形成増強作用を抑制することで、抗動脈硬化に寄与する可能性を見出した。
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