研究課題/領域番号 |
19K07053
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
松下 暢子 東京薬科大学, 生命科学部, 准教授 (30333222)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エピゲノム / DNA損傷修復 |
研究実績の概要 |
大気汚染などの環境の変化や肥満、睡眠不足などのライフスタイルの変化が引き起こす様々なストレスによる精子の機能低下が、男性不妊の主要な原因となっており、この精子の機能低下の大きな要因が精子DNAの損傷であることが最近、明らかにされてきた。さらに環境やライフスタイルの変化は細胞にエピジェネティックな変化をひきおこすことより、精巣においても同様な変化がおきていることが考えられるが、精巣におけるエピゲノム制御因子のDNA損傷修復応答における詳細な機能は未だ不明である。 本研究では、精巣におけるエピゲノム制御因子の機能を明らかにし、エピゲノム情報の再構築によるDNA損傷修復反応の精巣特異的な分子基盤を明らかにすることを目指している。さらに、放射線や抗がん剤などでのDNA損傷による男性不妊マウスモデルを用いて精子形成におけるエピゲノム制御因子の機能の解明を目的としている。これまでに放射線照射によるDNAの切断により、転写活性が変化するエピゲノム制御因子を明らかにしてきた。さらに、このエピゲノム制御因子のプロモーター領域をルシフェラーゼ遺伝子の上流に導入したレポーターコンストラクトを作製し、ルシフェラーゼベースのレポーターアッセイを行なってきた。その結果として、現在までエピゲノム制御因子の発現調節部位の配列から予測される複数の転写因子のsiRNAを用いてレポーターアッセイを行い、転写を制御する複数の因子をすでに同定しており、エピゲノム制御因子によるDNA損傷修復応答制御機構を解明する手がかりを得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍により大学に登校する日数が制限される自粛期間があり進捗状況はやや遅れているが、これまで、精巣において加齢やストレス、あるいは放射線や抗がん剤によってひきおこされるDNA損傷によって転写が活性化される、あるいは抑制されるエピゲノム制御因子を同定し、その機能と転写制御機構を明らかにすることによって、DAN損傷応答におけるエピゲノム再構築の分子メカニズムを解明することを目指して研究を行ってきた。 現在まで、放射線照射や抗がん剤によってひきおこされるDNA損傷により、転写が増減されるエピゲノム制御因子群を既に明らかにしており、これらのエピゲノム制御因子の精巣における発現領域を明らかにしている。さらにこれらの転写を制御する複数の転写因子を同定している。また、すでにCRISPR-Cas9システムを用いてこれらのエピゲノム制御因子を欠損させた細胞と、その欠損細胞にエピゲノム制御因子遺伝子を恒常的に発現させた細胞を作製している。現在これらの細胞において、DNA損傷修復タンパク質の細胞内動態にどのような変化が認められるのか解析を行い、こられのエピゲノム制御因子が欠損することによってDNA損傷修復タンパク質の集積に異常が認められることがわかった。さらにこれらの細胞を用いて、放射線照射によるDNA二重鎖切断損傷後における、ヒストン修飾を網羅的に解析し比較検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はエピゲノム情報の再構築によるDNA損傷修復反応制御機構の精巣特異的な分子メカニズムを詳細に解明することを目的としている。 これまでに精巣において、DNA損傷後において転写が変動するエピゲノム制御因子をすでに同定しており、このエピゲノム制御因子による遺伝子発現制御機構の網羅的解析を現在行っている。すでに作製しているエピゲノム制御因子欠損細胞と恒常的高発現細胞を使用して次世代シーケンサーによるRNAシーケンス解析を用い、DNA二重鎖切断後における既知の転写産物の発現定量化と配列から新規転写産物や新規スプライスジャンクションを網羅的に探索し、微量転写産物についても比較検討し、このエピゲノム制御因子による遺伝子発現制御機構の網羅的解析を行なっている。さらに今後はDNA二重鎖切断後における、エピゲノム制御因子のゲノム上の特異な部位への結合についてゲノムクロマチン免疫沈降シーケンスを行い調べる。 さらに、今後は抗がん剤や放射線照射によるマウス精子形成と不妊への影響とエピゲノム制御因子の機能の解析を行う予定である。精巣での減数分裂時のDNA損傷修復反応におけるエピゲノム制御因子の影響を、マウスを用いて解析する。放射線照射、あるいは抗がん剤のシスプラチン、ドキソルビシンの腹腔投与を行い、1週間後にマウスの精巣から精母細胞を採取し減数分裂時期期によるエピゲノム制御因子の発現量についてリアルタイムPCRによって解析するとともに、組織学的解析も行う。また、マウス精巣にエピゲノム制御因子を標的とするsiRNAを直接注入した発現抑制群とコントロールsiRNAを注入したコントロール群を作製し、精母細胞から精子への分化能への影響について組織学的解析を行う。また精巣から精母細胞を採取しRNAシーケンス解析を用いて、減数分裂時期期におけるエピゲノム制御因子による転写制御機構について解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により大学に登校する日数が制限される自粛期間が長期間あり、研究活動が滞ったために今回の次年度使用額が生じた。 この次年度使用額と翌年度分(2021年度)として請求した助成金と合わせた使用計画としては、当初予定していた計画よりややおくれているが、2020年度に予定していたマウス実験を行う。マウス精巣にエピゲノム制御因子を標的とするsiRNAを直接注入した発現抑制群とコントロールsiRNAを注入したコントロール群を作製し、精母細胞から精子への分化能への影響について生化学的解析と組織学的解析を行う。さらに、今後は精巣での減数分裂時のDNA損傷修復反応におけるエピゲノム制御因子の影響を、同様にマウスを用いて解析する。放射線照射、あるいは抗がん剤のシスプラチン、ドキソルビシンの腹腔投与を行い、1週間後にマウスの精巣から精母細胞を採取し減数分裂時期期によるエピゲノム制御因子の発現量についてリアルタイムPCRによって解析するとともに、組織学的解析をおこなっていく。
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