紫外線や大気汚染などの環境の変化や過労や睡眠不足などが引き起こす様々なストレスは精子の機能低下をもたらし、男性不妊の主要な原因となる。このときみられる精子の機能低下の大きな要因として精子DNAの損傷であることが最近明らかになってきた。また抗がん剤治療における男性不妊の影響は、特に若年者においては大きな問題となっている。これらのストレスは細胞にエピジェネティックな変化をひきおこすことより、精巣においても同様な変化がおきていることが考えられるが、精巣におけるエピゲノム制御因子のDNA損傷修復応答における詳細な機能は未だ不明である。 本研究は、エピゲノム制御因子の精巣における機能を明らかにし、エピゲノム情報の再構築によるDNA損傷修復反応の精巣特異的な分子基盤を明らかにすることを目的としておこなってきた。さらに、放射線や抗がん剤などでのDNA損傷による精子形成に関与する遺伝子のエピゲノム制御因子の機能の解明を目的としてきた。これまでに放射線照射や抗がん剤投与によるDNA損傷により、転写活性が変化するエピゲノム制御因子を明らかにしてきた。さらに、このエピゲノム制御因子のプロモーター領域をルシフェラーゼ遺伝子の上流に導入したレポーターコンストラクトを作製し、ルシフェラーゼベースのレポーターアッセイを行なってきた。その結果として、このエピゲノム因子を阻害する化合物を同定した。また、これまでエピゲノム制御因子の発現調節部位の配列から予測される複数の転写因子のsiRNAを用いてレポーターアッセイを行い、転写を制御する複数の因子をすでに同定しており、エピゲノム制御因子によるDNA損傷修復応答制御機構を解明する手がかりを得ている。
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