研究課題/領域番号 |
19K07056
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
中尾 晃幸 摂南大学, 薬学部, 准教授 (20288971)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 紫外線吸収剤 / 人体汚染 / 母乳 / 毒性評価 |
研究実績の概要 |
紫外線吸収剤(UVS)は、プラスチック製品などの劣化防止のために添加される化学物質であり、主にベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系及びトリアジン系に大別できる。我が国ではベンゾトリアゾール系UVS (BUVS)である2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-t-ブチルフェノール(UV-320)が化審法の第1種特定化学物質に指定され、その製造等が規制されている。また、UV-327及びUV-350は監視化学物質として製造等の届出が義務化されている。しかし、これら化学物質による環境汚染に関する報告例はあるものの、人体汚染に関してはほとんど報告例がない。加えて、上記の化審法の対象となる3種以外のBUVSは、いずれも UV-320と類似した構造を有していることから、その他のBUVSに関しても同様な毒性、蓄積性及び環境残留性を有する可能性が考えられる。そこで本研究は、昨年度からの調査を継続し、母乳の提供者からの室内大気と3食分の食事を20名(合計60検体)のデータ解析が終了した。 2020年度の研究実績として、母乳、大気及び食事中のBUVS汚染が解明された。その内容は20名から採取した母乳中の総BUVSの濃度は、1.28から110 ng/g, lipidの範囲であった。化合物毎の組成を比較したところ、主な組成はUV-329が高濃度で検出され、母乳汚染の特徴的な汚染であることが判明した。次に、このUV-329の汚染源について食事と大気を解析したところ、食事中にもUV-329が大部分を占めることから、食事経由による曝露があることを示唆する結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り2020年度では、人体汚染経路及び汚染レベルに関する調査を継続し、2019年度の調査結果に追加することができた。また、継続的に母乳提供者を募っており、さらに13名の追加協力を得ている。さらに実験動物を用いた紫外線吸収剤の毒性評価にも着手しており、データを集積中である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、動物実験を中心に実施する計画である。実験動物に、紫外線吸収剤を投与後、各臓器、血液、尿及び糞中のBUVAを経時的にモニタリングすることにより、吸収率、分布率及び排泄率を算出する。また、内分泌かく乱作用が疑われていることから、生殖毒性について精力的に実施していく予定である。具体的には、OECDテストガイドラインNo. 407に準拠し、交尾率、受胎率、出生仔の雌雄比、F1世代の生存率、精子検査(精子数、精子運動能と精子形態学観察)、血液中の性ホルモンの定量を実施する。さらに、各摘出臓器の酵素活性(CYP1A(EROD活性)、CYP2B(BROD活性)、ステロイド代謝型のCYP3A(Testosterone 6β-hydroxylase活性)、ステロイド合成型のCYP17(17β-hydroxylase)及びCYP19(Aromatase活性)を測定する。また、血清を用いて肝障害パラメーター(AST、ALT等)についても測定する。以上の結果を総合的に評価することにより、BUVAの摂取による乳児への健康影響について解析し、既存の毒性データ等と比較しながら、再評価を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度4月より新型コロナ感染症による感染防止拡大措置のため、大学構内での研究活動が一定期間自粛となったことが最も大きな要因となる。一旦、研究を止めると再スタートさせるのに約3ヶ月かかったこともあり、次年度使用額としての使用を決定した。
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