研究実績の概要 |
本研究では生体内あるいは細胞内における一重項酸素の機能を探求し、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)等の疾患発症に一重項酸素が関与するのか、という仮説を検証する。 令和3年度は、NASH初期段階の脾臓で大量の鉄を取り込んだ細胞は、軽度の活性酸素種(ROS)産生能とサイトカイン産生能を持ち、貪食能を有するマクロファージであることを明らかにし、論文として発表した (Murotomi et al., Exp Biol Med., 2022)。研究代表者は以前に、NASH初期症状と脾臓の鉄蓄積量が相関することを見出し、脾臓がNASH病態に影響を及ぼす可能性を示した(Murotomi et al., Sci Rep., 2016)。しかし、鉄を蓄積した脾臓細胞がどのような機能を有するかは不明であった。鉄は過酸化水素と反応し、ROSの一種であるヒドロキシラジカルを産生する。従って、NASH初期の脾臓ではROSが大量に産生され、門脈を介して肝臓へ悪影響を与えるとの仮説を立て、NASHモデルマウスの脾臓を解析した。その結果、NASHモデルの脾臓細胞におけるROS産生量や抗酸化遺伝子発現量はわずかに上昇していた。脾臓細胞の特性をFACSで解析した結果、NASHモデルの脾臓では、CD68陽性のマクロファージが豊富に存在することが明らかとなった。そこで、脾臓細胞を培養し、リポポリサッカライドを添加した結果、炎症性サイトカインTNFαの産生量が顕著に増加した。以上の結果、NASH初期段階で鉄が蓄積した脾臓ではマクロファージが集積し、ROS産生能がわずかに高く、刺激応答性のサイトカイン産生能が高いことが明らかとなった。今後は、脾臓切除手術を行い、鉄が蓄積した脾臓がNASH病態に及ぼす影響を明らかにする。
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