研究課題
私共は、これまでにin vivoエレクトロポレーション法による新生仔マウス海馬歯状回神経細胞への遺伝子導入法を確立した。そして、この手法を用いて、低分子量Gタンパク質であるRac1、Rac3およびCdc42が、海馬歯状回神経細胞の発達を制御していることを明らかにした。Rac1情報伝達系のスキャホールド分子であるCNK2は、X連鎖知的障害の原因候補遺伝子として知られているが、神経系組織における機能については不明な点が多い。私共が行ったCNK2の生化学的および形態学的解析の結果、マウス脳では生後発達に伴い発現が増加することや大脳皮質および海馬の神経細胞に多く含まれることなどが明らかとなった。また、その解析の過程で、CNK2は海馬歯状回神経細胞の前駆細胞でも発現していることを見出した。そこで、海馬歯状回神経細胞の発達におけるCNK2の機能解析を行った。生後0日マウスを用いたin vivoエレクトロポレーション法によって、海馬歯状回神経細胞の前駆細胞にCNK2の発現を抑制するノックダウンベクターを遺伝子導入し、生後21日目に組織標本を作製し解析を行った。その結果、CNK2の発現抑制によって、歯状回顆粒細胞層に局在する神経細胞が減少し、顆粒細胞層と歯状回門の境界領域に局在する神経細胞が増加していた。次に、CNK2と結合するARHGAP39、ARHGEF7およびCYTH2についても同様の実験を行ったところ、CYTH2の発現を抑制した場合に、CNK2の発現抑制をした時と同様の歯状回神経細胞の局在障害が見られた。これらのことから、CNK2とCYTH2は協調して新生仔期マウス脳の歯状回神経細胞の発達を制御していると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
予備的な実験結果から、CNK2が新生仔マウス脳における歯状回神経細胞の発達を制御している可能性が見出されていたが、繰り返して実験した結果、再現性良くデータが得られたため確信を持つことができた。また、CNK2の結合分子の一つであるCYTH2の発現を抑制した場合にも歯状回神経細胞の局在異常が観察され、分子機構を解明する端緒が見出された。これらのことから、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えている。
CNK2およびCYTH2が、歯状回神経細胞の分化を制御しているか、分化マーカーを用いた組織化学的解析を行う。また、樹状突起や樹状突起スパインの形成など、神経細胞の形態形成における機能を明らかにする。さらに、CNK2とCYTH2の相互作用を生化学的および細胞生物学的に解析し、その意義を明らかにする。
遺伝子導入後のマウスから作製した脳組織を用いた実験は、組織標本を一度作製すると細胞の局在や神経細胞の形態解析など複数の指標について解析が可能である。そのため、データの取得や解析に多くの時間が費やされ、実験材料の消費が想定よりも少なかった。次年度以降は、分化マーカの発現を形態学的に解析する予定であり、新規に抗体等の試薬を購入する機会が増加すると予想している。
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