研究課題
外部環境に晒されている生体を病原体や異物の侵入から守り、体内からの水分等の損失を防ぐ「生体バリア」は個体の恒常性維持の根幹を担う機能である。本研究では、消化管における極長鎖脂質の分布及びバリア機能における役割を明らかにすることを目的としている。今年度は、まず極長鎖脂肪酸(炭素鎖長21以上の脂肪酸)の産生に関わる脂肪酸伸長酵素ELOVL1を口腔及び食道においてノックアウトする系の作製を進めた。前年度に作製した口腔及び食道でCreを発現するトランスジェニックマウス系統をElovl1 floxマウスと交配した。その結果、口腔及び食道でElovl1のmRNAレベルが10%未満に低下したElovl1コンディショナルノックアウトマウス系統(Elovl1 cKOマウス)が得られた。Elovl1 cKOマウスの口腔及び食道のセラミドを質量分析により解析した結果、炭素鎖長24以上の脂肪酸を持つセラミド分子種が減少しており,短鎖化が見られた。また、バリア機能への関与が推定される極長鎖脂質も減少していた。続いて、Elovl1 cKOマウスの口腔バリア機能を評価した。口腔粘膜への色素の浸透性を解析した結果、Elovl1 cKOマウスでは色素の浸透性が高く、バリア機能の低下が見られた。また、飲水に刺激物質を加え、バリア機能を飲水量の減少を指標として間接的に評価した結果、Elovl1 cKOマウスではコントロールよりも飲水量が顕著に減少したことから、バリア機能の低下が裏付けられた。これらの結果から、Elovl1が産生に関与する極長鎖脂質が口腔バリア機能に重要であることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
ELOVL1が産生に関与する極長鎖脂質が口腔の物質透過性バリア機能に必要であることを見出し、研究が大きく進展した。一方、消化管の極長鎖脂質の分布については解析が口腔と食道にとどまっている。これらの進展状況からおおむね順調と判断した。
マウスの口腔及び食道に存在する極長鎖脂質が胃、小腸、大腸にも存在するかどうか解析する。また,ヒトの口腔にも同じ極長鎖脂質が存在するか検討する。Elovl1 cKOマウスの消化管について,タイト結合やムチン等の脂質以外の消化管バリア構成因子やバリア機能の破綻と関連した炎症マーカー等の発現解析を行う。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) 備考 (1件)
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