研究課題
外部環境に晒されている生体を病原体や異物の侵入から守り、体内からの水分等の損失を防ぐ「生体バリア」は個体の恒常性維持の根幹を担う機能である。本研究は消化管における極長鎖脂質(炭素鎖長21以上の脂肪酸である極長鎖脂肪酸からなる脂質)の分布及びバリア機能における役割を明らかにすることを目的とする。今年度は野生型マウスの消化管を口腔粘膜,食道,胃,小腸,大腸に区分し,それぞれの組織に含まれるセラミドを質量分析により解析した。セラミドを構成する長鎖塩基と脂肪酸には二重結合や水酸基の数および位置の異なるタイプが存在し,それらの組み合わせにより20以上のセラミドクラスが存在する。さらに,脂肪酸はC16からC36の範囲で異なる炭素鎖長をもつため,セラミドには数百以上の分子種が存在する。本研究では質量分析を用いてこれらのセラミド分子種を区別して定量した。その結果、これまで表皮に特異的に存在すると考えられていた透過性バリア形成を担う特定の極長鎖セラミドクラスが口腔粘膜,食道,胃に存在し,小腸と大腸には存在しないことが明らかになった。口腔粘膜,食道,胃の一部である前胃の上皮組織は表皮と同じ重層扁平上皮であることから,これらの極長鎖セラミドクラスは重層扁平上皮組織全般で合成されうることが示唆された。このことと一致して,これらの極長鎖セラミドクラスの合成に特化した酵素の遺伝子は表皮のみならず口腔粘膜,食道,胃にも発現し,小腸と大腸ではほとんど発現していなかった。他のセラミドクラスは消化管の部位によって異なる分布を示し,それぞれのクラスに属するセラミド分子種の脂肪酸の炭素鎖長も異なる組成を示した。本研究により,消化管の詳細なセラミドプロファイルが明らかになった。
北海道大学大学院薬学研究院 創薬科学部門 生体機能科学分野 生化学研究室 http://www.pharm.hokudai.ac.jp/seika/index.html
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