研究課題
近年になりプロテアソーム機能の多寡ががんや神経変性疾患などの病態発症や寿命を左右することが知られており、実際にプロテアソーム阻害剤bortezomibが難治性多発性骨髄腫の治療薬として使用され効果を上げている。しかし、bortezomib耐性細胞の出現が臨床現場で顕在化しているものの、プロテアソーム阻害時に応答する恒常性維持機構の実体はほとんど解明されていないことから、有効な対応策・治療戦略が確立していない。ごく最近、独自に確立した生理的プロテアソーム不全を模した実験系を活用したゲノムワイドsiRNAスクリーニングにより申請者らはプロテアソーム不全時の恒常性維持にO-GlcNAc修飾タンパク質亢進が重要であることを見出した。本研究ではO-GlcNAc修飾タンパク質亢進による恒常性維持機構の分子メカニズム解明を軸にプロテアソーム不全に起因する病態発症機構の理解や、がん治療におけるプロテアソーム阻害剤耐性細胞に対する新たな分子標的薬ターゲット・治療アプローチの創出を目指し、具体的には以下の観点から計画を実施した。1: O-GlcNAc修飾タンパク質亢進による恒常性維持制御因子の探索2: 各因子が担う恒常性維持機構における具体的な分子機能の解明3: マウス個体を用いた恒常性維持制御因子の生理機能の解明これらの推進により、これまでのところ計画を順調に推進することができ、論文報告することができた。また、従来の概念から想定されるものとは異なる新規性の高い現象であることも明らかにしつつある。
2: おおむね順調に進展している
O-GlcNAc修飾の亢進がプロテアソーム不全時の恒常性維持に重要であることを複数のがん細胞株で確認し、対象としている現象が広範な細胞恒常性維持機構であることを明らかにした。様々な試薬との併用効果の検証により、O-GlcNAc阻害はbortezomibと異なる作用機序により選択的に作用し相乗的な治療効果をもたらす新規創薬標的であることが示された。腫瘍モデルおよびすでに樹立ずみのbortezomib耐性細胞において候補因子のノックダウンおよび阻害剤におけるbortezomibとの併用効果を確認した。O-GlcNAc修飾の亢進はプロテアソーム のターンオーバーを亢進し、細胞内のプロテアソーム の品質管理に働いていること明らかにした。O-GlcNAc化タンパク質の質量分析解析により、プロテアソーム不全時に働く恒常性維持に重要な候補因子を同定したことから、現在この因子に着目して研究を行なっている。
今後は、現在までに明らかにしている現象のより具体的な分子機構の解明を課題に、具体的な因子を対象にO-GlcNAc修飾の分子機構解明を目指すとともに治療標的としての可能性についてモデル生物を用いて検討する。O-GlcNAc化タンパク質の網羅的質量分析で同定した因子の機能について解明を進める。すでに明らかにしているプロテアソームターンオーバーへの具体的な作用機構をノックダウン、ノックアウト細胞での生化学的解析から明らかにする。候補因子の重要性と分子機能は明らかになりつつあり、過剰発現や欠損体などの遺伝子改変マウスを作出し、これまでに作出ずみのプロテアソーム減弱モデルとの交配による寿命や各種病態発症への効果を検証する。Azoxymethane投与による化学発がんモデルマウス及びApc 遺伝子変異マウスによる自然発がんモデルマウスを使用して、腫瘍サイズや生存日数測定によりマウス個体におけるbortezomibとO-GlcNAc修飾阻害による併用療法の効果を検証する。
すべて 2020
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