本研究は、CYP2J2活性を強力かつ選択的に阻害する降圧薬を見出し、このような薬剤が抗腫瘍効果を示すか否か、また分子標的薬の有効性を高めるか否かを細胞レベルで明らかにすることを目的とし、以下の解析を行った。 申請者らが見出したCYP2J2活性を強力に阻害する降圧薬(14化合物)が他のCYP分子種の活性を阻害するか否かヒト肝ミクロゾームを用いて検討した結果、アゼルニジピンはCYP2J2活性を強力かつ選択的に阻害する降圧薬であることが示唆された。次に、これら降圧薬(0.1、1、10μM)がヒト腫瘍株化細胞における増殖能に対してどのような影響を及ぼすのか検討した。その結果、GIST-T1細胞に対しては、ニフェジピンを除く全ての降圧薬が、またSK-HEP-1細胞に対しては、ニフェジピン、ニルバジピンおよびニトレンジピンを除く全ての降圧薬が10μM処理時に増殖能を有意に低下させた。これらのことから、多くの降圧薬はこれらヒト腫瘍株化細胞に対して増殖抑制作用を示すことが明らかとなった。 次に、これら降圧薬(0.1、1μM)が分子標的薬であるソラフェニブおよびスニチニブの増殖抑制作用に対してどのような影響を及ぼすのか検討した。GIST-T1細胞においては、いずれの降圧薬もソラフェニブおよびスニチニブの増殖抑制作用を有意に増強しなかった。また、SK-HEP-1細胞においても、多くの降圧薬は両分子標的薬の増殖抑制作用に影響を及ぼさなかったが、アムロジピン、アゼルニジピン、ベニジピン、シルニジピンおよびマニジピンはソラフェニブの増殖抑制作用を有意に減弱した。これらの結果から、少なくとも本実験条件下では、分子標的薬の有効性を高める可能性のある降圧薬を見出すことはできなかった。今後、これらヒト腫瘍株化細胞にCYP2J2を強制的に高発現させた細胞株を用いて検証する必要がある。
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