研究課題/領域番号 |
19K07066
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
南 彰 静岡県立大学, 薬学部, 講師 (80438192)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シアル酸 / シアリダーゼ / 認知症 / 記憶 / 老化 / ラット |
研究実績の概要 |
自然界に存在するシアル酸の主要な分子種として、N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)とN-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)の2種類がある。Neu5Acは脳に豊富に存在し、認知機能に重要な役割を担う。一方、全ての哺乳動物の脳ではNeu5Gc合成酵素(CMAH)が発現しておらず、脳においてNeu5Gcを作り出すことができない。研究代表者はNeu5Gcのラット体内動態を分析したところ、末梢から脳へNeu5Gcが移行することを見出している。糖鎖からシアル酸を外す酵素(シアリダーゼ)は記憶形成に不可欠であるが、Neu5Gcはこのシアリダーゼの働きを阻害する。アセチル化N-グリコリルマンノサミン(ManNGcPA)をラット海馬に投与すると、CMAHとは異なる生合成経路でNeu5Gcが合成され、海馬選択的にNeu5Gcが発現することが見いだされている。そこで、この海馬選択的なNeu5Gc高発現ラットの記憶能をモリス水迷路で評価したところ、記憶能が顕著に減少していた。このことから、脳に移行したNeu5Gcは記憶能を減弱させることが示唆される。そこで本年度では、記憶の基礎過程であるシナプス可塑性に対するNeu5Gcの影響とヒト脳におけるシアル酸分子種を分析した。Neu5Gcを高発現するラットにおいてin vivo細胞外電位記録で評価した長期増強は有意に減弱していた。また、LC-MSを利用してヒト脳に含まれるシアル酸分子種を分析したところ、Neu5Gcが蓄積していることを見出した。このことから、脳に蓄積したNeu5Gcは、シナプス可塑性を減弱させることによって認知機能に影響することが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マイナーなシアル酸分子種がシナプス可塑性に及ぼす影響や脳に蓄積することなどを明らかにするとともに、研究成果を学術論文や学会で公表した。以上を鑑みて総合的に「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度においては、脳に蓄積したNeu5Gcがシナプス可塑性を減弱させることによって、認知機能に影響する可能性を見出した。今後は脳に蓄積したNeu5Gcが、認知症などの神経疾患にどのように影響するのかについて明らかにする。
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