黄色ブドウ球菌は健常人にも存在する常在性菌であるが,多彩な毒素を産生することが知られている.毒素の機能については古くから研究がなされているが,いまだ生理機能が明らかにされていない毒素も存在している.一方で本菌はアトピー性皮膚炎患部において高頻度で検出され,免疫アレルギー疾患との関係が指摘されている.このことから本菌が毒素を介して免疫アレルギー疾患の発症増悪にかかわる可能性が指摘されていたが,特定の毒素によるアレルギーの発症メカニズムについてはδ毒素を除けは報告がなされていない.研究代表者は本菌の産生する溶血毒素やその他の免疫かく乱毒素の,各種免疫細胞の機能に及ぼす影響を検討し,毒素を介した本菌の免疫アレルギー疾患発症増悪機構の存在を明らかにすることを目指した.昨年度までに溶血毒素αヘモリジンがマスト細胞の脱顆粒を増強すること,14種からなる免疫かく乱毒素Staphylococcalsuperantigen-like(SSL)ファミリーに属する毒素SSL12がマスト細胞の脱顆粒と好塩基球のTh2型の免疫応答を促進するサイトカインIL-4の産生を誘導することを示し,生理的な機能が未知であった毒素のアレルギーの発症増悪にかかわる生理機能を示すことができたとともに,αヘモリジンのような機能既知の毒素の新たな生理機能を示すことができた.本年度はSSL12のマスト細胞活性化作用を標的としたトキソイドの開発を目指し,SSL12のマスト細胞活性化かかわる責任アミノ酸残基の特定をおこなった.一つのアミノ酸残基置換によりSSL12のマスト細胞活性化能が大きく減弱し,もう一つの変異を導入することで,マスト細胞活性化能が完全に消失した.この知見は黄色ブドウ球菌毒素を標的としたアトピー性皮膚炎など免疫アレルギー疾患の発症増悪を予防するワクチンの開発に寄与すると考えられる.
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