研究課題/領域番号 |
19K07069
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
小濱 孝士 昭和大学, 薬学部, 准教授 (60395647)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 好中球 / 酸化LDL / リポタンパク質 / 動脈硬化症 / 血管炎症 |
研究実績の概要 |
好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps: NETs)は動脈硬化や血栓など血管疾患の病巣に見いだされるが、NETs形成においてリポタンパク質や脂質代謝がどのように影響するかは未解明な点が多く残されている。本研究はLDLまたは酸化LDL存在下におけるNETs形成の特徴、およびこれらの血管内皮細胞への影響を明らかにすることを目的として検討を進めている。今年度は以下の点を明らかにした。 ・NETsで放出されるプロテアーゼによるリポタンパク質変性の検討:HL-60由来好中球をPMAで刺激してNETsを誘導した後、その培養上清を未変性LDLと混和してインキュベートした。Western blotによりapoBを検出すると、NETsを含む培養上清によりapoBの断片化が進行することを確認した。好中球の代表的なプロテアーゼであるカテプシンGとエラスターゼの寄与について各阻害剤の有無で比較した結果、エラスターゼ阻害剤によりapoB断片化が顕著に抑制されたことから、NETsによるLDL変性にはエラスターゼの寄与が大きいことを見出した。 ・酸化LDLを付着させたwell内でのNETs形成:動脈硬化病巣の血管壁には酸化LDL由来の成分が蓄積していることを模倣し、酸化LDLをコートしたwell内でのHL-60由来好中球のNETs形成を検討した。付着した酸化LDL上ではヒストンシトルリン化は進行せず、PMA刺激によるNETs形成と培地中へのNET-DNA放出がcontrolより減少した。 ・ヒト大動脈血管内皮細胞(HAECs)のLDL取り込みとNETsの影響:DiI-LDLを用いてHAECsへの取込みを蛍光顕微鏡で観察し、NETsの影響について検討した。NETsの有無で有意な違いは見られておらず、リポタンパク質取込みに対するNETsの影響は小さい可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
好中球のNETs形成とリポタンパク質変性の相互関係について検討し、好中球のNETs形成がアポリポタンパク質の断片化を介してLDL変性を誘導する可能性を示し、リポタンパク質変性と好中球NETs形成が互いに促進しあう新たな知見を見いだすことができた。 これまでコレステロール結晶がNETs誘導能をもつことが報告されていたことを踏まえ、沈着した状態の酸化LDLがNETsに影響を及ぼす可能性について新しく検討を行ったが、今回の結果から、酸化LDLに由来する化合物のうち比較的水溶性が高く培地中に存在すると考えられる化合物が好中球のNETs形成促進に大きく寄与する可能性が強く示唆され、今後の課題が確認された。 HAECsのDiI-LDL取込みに対するNETsの影響については、顕微鏡による形態的な観点からの観察だけでなく細胞を回収してより定量的な解析を行うなど、他のアプローチも必要と考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
好中球のNETs形成によるLDL変性について、LDL粒子の形状変化が生じる可能性について検討するため、走査型電子顕微鏡を用いて粒子形や粒子径の変化、凝集の有無などに着目して観察する。またLDL変性による脂質成分の変化についても検討するため、リピドミクスの手法によりリン脂質分子種の酸化物やリゾリン脂質の生成について解析する。NETsとLDLの共存で生成する低分子化合物が見いだされた場合は、HAECsに作用させて細胞の形態変化や炎症応答などの変化について解析する。 HAECsのLDL取込みとNETsの影響について、顕微鏡による観察に加えて細胞抽出液を用いた定量的解析について試みる。また受容体の関与やエンドサイトーシス経路を操作したときの細胞応答についても検討する。 ヒトLDL画分から分画した生体内酸化LDLは銅酸化LDLとは異なった酸化脂質組成をもつことを当研究室で見出しており(Sawada N, et al., J Lipid Res(2020)61(6):816-829)、両者の酸化LDLによるNETs形成への影響についても比較検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度予定されていた学会の多くが中止となり、学会参加費や旅費などの支出がなかったため。翌年度に物品費などで使用する予定である。
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