研究実績の概要 |
アルツハイマー病(Alzheimer's disease, AD)の一次原因物質であるアミロイドβペプチド(amyloid-β peptide, Aβ)は前駆体APP(amyloid precursor protein)からβおよびγセクレターゼによって産生される。産生されたAβは主にネプリライシン(neprilysin, NEP)によって分解され、健常者脳ではAβ量が産生と分解の均衡の割合が保たれている。ADに対する根本的治療薬としてセクレターゼ阻害剤の治験が次々と中止となっていくことから、新たな標的に対する治療薬の開発が望まれている。そこで、ダウン症者脳では早期からAD病理が観察されることから、ダウン症者でトリソミーになっている21番染色体に存在するキナーゼDYRK1A(dual-specificity tyrosine-(Y)-phosphorylation-regulated kinase 1A)に着目し、Aβの分解系への影響を検討した。 まず、健常者とダウン症者由来の線維芽細胞を用いてNEP活性を測定したところ、ダウン症者由来の細胞で有意に低下していた。次に、市販のDYRK1A阻害剤でダウン症者の細胞を処理すると、NEP活性が増加した。これらのことから、低下しているNEPの活性は過剰なDYRK1Aの阻害で回復することが示唆された。さらに、NEPの発現を検討していると、ダウン症者由来の細胞では有意に低下していた。このことは、DYRK1Aまたは21番染色体に存在するその他の遺伝子の影響であり、今後の検討課題である。また、DYRK1Aを阻害する化合物の創製を試みた結果、実験で汎用されている化合物よりもDYRK1Aに対して親和性が高い化合物をin silicoで見出し、合成まで行った。これらの化合物は、DYRK1Aの阻害によりADの有用な治療薬になり得ると考えられる。
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