研究課題/領域番号 |
19K07072
|
研究機関 | 鈴鹿医療科学大学 |
研究代表者 |
中山 浩伸 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 教授 (40369989)
|
研究分担者 |
森田 明広 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 助教 (20382228)
田口 博明 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 教授 (20549068)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 鉄欠乏ストレス / 真菌感染症 / カンジダ / 病原性発現 / 標的分子 |
研究実績の概要 |
鉄欠乏は、感染時に起こる様々なストレスのうち、病原性との関連が強い。そのため、有効な治療法の開発が急務である真菌感染症対策において優れた薬剤標的因子が選出できる可能性がある。本研究は、病原酵母カンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)を用いて、鉄欠乏ストレスの応答時に構築される鉄代謝のネットワークの解明から真菌症の治療戦略を創出することを目的としている。 本年度は、トランスクリプトーム解析などから鉄代謝の制御に関わると考えらえた遺伝子の欠損株を作製し、培地中の鉄濃度が低いと増殖できない株を選抜、それらの株をカイコの感染モデルを用いて、病原性低下の有無を確認した。その結果、鉄欠乏時に鉄代謝関連遺伝子の分解に関わる因子CTH2の欠損株の病原性が、鉄取り込みに関わる遺伝子(FET3、FET4、ARN1)の欠損株より低いことが確認できた(第31回微生物シンポジウムで口頭発表)。そこで、CTH2のtet-OFF株を用い、RNA-seqにより発現がONおよびOFFの時のトランスクリプトーム解析を開始している。現在、CTH2制御下にある遺伝子群の絞り込みとそれら遺伝子の非翻訳領域の共通配列の検索を行なっている。また、CTH2の欠損株やtet-OFF株を用いた、阻害化合物の細胞レベルのスクリーニング系のセットアップ中である。さらに、その欠損株では形態変化を示し、鉄キレーター作用を持つ血清に感受性が高いキナーゼ遺伝子ELM1について、RNA-seqによるトランスクリプトーム解析(野生株 vs elm1欠損株)を行ったが、現在のところ、鉄代謝との関連を見出すまでに至っていない(elm1欠損株の形態異常や病原性については、論文投稿中)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究期間で、1)トランスクリプトーム解析から鉄代謝調節に関わっていると考えている因子の同定とそれらのネットワーク上で位置付けの決定、2)鉄の代謝調節は、ミトコンドリアとバキュオロの機能が強く関連するため、同定した因子の機能やミトコンドリアやバキュオロとの関連性の解明、3)因子の変異株を用いた真菌感染モデルの実験から抗真菌薬の標的分子としての妥当性を検討、4)変異株を用いた細胞レベルでのスクリーニング系の確立を計画した。 1)および3)については、ひとまず、候補遺伝子を約20遺伝子とし、それらの変異株作製を完了した。これらの変異株のうち、培地中の鉄濃度が低いと増殖できない株を選抜し、カイコ感染モデルを用いて病原性への関与の有無を確認した。その結果、鉄欠乏時に鉄代謝関連遺伝子の分解に関わる因子CTH2の欠損株の病原性が最も下がることが明らかになった(第31回微生物シンポジウム)。2)に関しては、ミトコンドリアおよびバキュオロ活性を蛍光にて測定する系をセットアップ中であるため、それらと候補遺伝子との関連性を明らかにするまでには至っていない。4)に関しては、スクリーニングに用いる変異株(通常の株が生育できない低鉄濃度の培地でも生育する株)の選定が手間取っており、計画した項目で一番進行が遅れている。 このように、計画した項目について実験を実施しているものの、十分に実施できていない項目があるため、今後、これら完了していない項目について優先的に進めていく予定である。以上をまとめ、本研究課題全般として、やや遅れていると認識している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、前年度に実験が完了していない、ミトコンドリアおよびバキュオロ活性を蛍光にて測定する系のセットアップを急ぎ、候補遺伝子とミトコンドリアおよびバキュオロとの関連を明らかにする。また、スクリーニングに用いる変異株の候補のクライテリアを広げ、通常の株が生育できない低鉄濃度の培地でも生育する株だけではなく、高濃度の鉄添加培地でしか生育できない株なども視野にいれて選定を進め、化合物のスクリーニング系を確立する。さらに、鉄欠乏ストレスの応答時に構築される鉄代謝のネットワークの解明を目指し、下記のような実験を遂行し、鉄欠乏応答システムの全容の解明や感染成立を防ぐための標的分子の提案、抗真菌活性を有する化合物の選出につなげる。 1)候補遺伝子の中で機能がわかっていないものに関して、3x HAおよび3x Mycを導入した株を作製する。次に上記の発現解析の結果をもとに各因子の発現時期まで培養し、超遠心により分画後、抗HA抗体および抗Myc抗体を用いたウエスタン解析で、細胞局在を調べる。 2)CTH2制御下にある遺伝子群の絞り込みとそれら遺伝子の非翻訳領域の共通配列の検索を引き続き行う。共通配列同定後は、それらの配列を含む核酸の添加によるCTH2のヌクレアーゼ活性の阻害状態を測定する。 3)真菌間で保存性が高くヒトにホモログがない、化合物のスクリーニング系の確立が容易とされる酵素もしくは受容体という基準をもとに優先順位をつけ、CTH2制御下にある遺伝子群の病原性への関与をカイコおよび培養細胞モデルを用いて検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
変異体のミトコンドリアおよびバキュオロ活性の測定や化合物のスクリーニングの実施が十分でなかったために、その際に使用するが蛍光試薬や化合物合成に関わる試薬の購入を本年度に回し、当初の実験計画通り、遺伝学的、生化学的実験を行う。
|