現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ADリスク因子のひとつであるTREM2の機能低下マウスでは、Aβ斑の近傍で保護的役割をもつとされるミクログリアの集簇が減弱し、神経障害性が亢進する。私たちはこれまでに、このマウスとPI(3,4,5)P3の代謝酵素であるInpp5dの欠損マウスを交配し、ミクログリアの集簇が部分的に回復することを見出していた。昨年度はこの解析を進め、Inpp5dの欠損によりアストロサイトの活性化の程度も回復することや、初代培養ミクログリアを用いてTREM2とINPP5DがPI(3,4,5)P3シグナル経路をそれぞれ正負に制御していることなどを明らかにした。 また、ミクログリアによるAβ貪食を定量化できる実験系を確立し、ADリスク因子の関与について解析を行った。Aβ線維の貪食にはTREM2が重要であり、その下流でPI(3,4,5)P3経路が活性化すること、またPI(3,4,5)P3代謝酵素の発現抑制により貪食活性が亢進することを明らかにした。 一方で、PIPsの役割をさらに詳細に解明するため予定していた、PIPsを可視化する解析に関しては進展がやや遅れている。昨年度中には、組換えAAVベクターを用いてin vitroおよびin vivoのミクログリアにPIPsの可視化プローブを遺伝子導入する実験系の構築を計画しており、その目的のため、ミクログリアへの導入効率が最適化された組換えAAVベクターシステムを開発者であるフロリダ大Golde教授らの協力のもと技術移転した。現在までに初代培養ミクログリアに対してこのベクターを用いることで蛍光タンパク質やshRNAの遺伝子導入が可能であることを確認している。しかし一方で、神経グリア共培養系やin vivoにおいては細胞毒性や感染効率の低さが問題となっており、現在はこれらを改善するための条件検討を行っている。
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