研究課題
必須脂肪酸の一種であるオメガ3脂肪酸は魚油に豊富に含まれ、種々の炎症病態において抗炎症作用を示すことが既に明らかにされている。一方、出血性ショックなどの重傷病態に対するオメガ3脂肪酸の臨床栄養学的研究は数少なく、オメガ3脂肪酸の短期間静脈内投与が出血性ショックと続発性遠隔臓器障害における炎症反応の抑制や循環動態の安定化に寄与することがラットを用いて示唆されている。しかし、オメガ3脂肪酸を経腸投与した場合の効果については明らかではない。本研究では、外傷性出血性ショックモデルラットを用いて、オメガ3脂肪酸を豊富に含む魚油を救急医療の臨床に近い条件下で短期間経腸投与し、その抗炎症作用について循環動態改善作用も含めて解析した。また、質量分析を用いたリピドミクスを行い、脂質メディエーター産生の視点から抗炎症作用機序について解析し、救命救急医療に適用可能な魚油経腸栄養剤の投与方法および抗炎症作用を評価した。その結果、次のことが明らかになった。(1)対照(生理食塩水)群やオメガ6(コーン油)群に比べて、魚油の短期間経腸投与は出血性ショック後の生存率を上昇させることが示された。また、ショック後の血圧や血中乳酸値の変化に関しても、魚油経腸投与により改善がみられた。(2)血漿中の遊離脂肪酸は、魚油群でEPA量が対照群の約3倍に増加した。また、ショック後の小腸と肝臓の遊離脂肪酸にも違いが認められ、魚油群でアラキドン酸が低下する一方、EPAが増加した。以上より、出血性ショックと続発する遠隔臓器障害における炎症反応の抑制や循環動態の安定化に対して、魚油の短期経腸投与は有用であることが示唆された。
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