研究課題/領域番号 |
19K07085
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
西村 明幸 九州大学, 薬学研究院, 講師 (00457152)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ミトコンドリア品質 / 慢性疾患 / 心疾患 |
研究実績の概要 |
我々はこれまでに、心筋梗塞時に起こる心筋ミトコンドリアの異常分裂に着目し、病態特異的に強まるDrp1-filamin複合体形成(ミトコンドリア-アクチン骨格連携)が心機能低下の引き金になることを見出した。そこで、ミトコンドリアダイナミクスの破綻を引き起こす様々な疾患におけるDrp1-filamin複合体形成の関与について検討を行ってきた。 メチル水銀はその神経毒性が良く知られているが、神経障害作用を示さない低濃度曝露によって心疾患リスクが上昇するとも報告されている。今回、我々は、メチル水銀曝露は心筋ミトコンドリアダイナミクスをかく乱することで心疾患リスクを増大させることを明らかにした。低用量メチル水銀を飲水投与したマウスは一見心機能に異常は確認されなかったが、大動脈狭窄などの外的負荷に対して著しく脆弱になることが明らかとなった。心筋形態の微細構造を電子顕微鏡により解析したところ、メチル水銀曝露によってミトコンドリアが断片化していることが確認され、これはDrp1-filamin複合体形成の促進によることが明らかとなった。Drp1-filamin複合体形成機構について検証を進め、細胞の「還元力」の分子実態である「活性イオウ」が関与することを明らかにした。活性イオウはDrp1のシステイン残基のポリイオウ化修飾を介してfilaminとの相互作用を抑制し、一方、メチル水銀はDrp1の脱イオウ化を誘導することでfilaminとの複合体形成を促進することが明らかとなった。硫化水素ナトリウム投与によってマウスの還元力を高めることでメチル水銀曝露による心疾患リスクを軽減できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画の目的の1つであった「Drp1-filamin複合体形成の分子機構」を活性イオウの観点から明らかにした。Drp1システイン624番が活性イオウによりポリイオウ化修飾されており、このポリイオウ化修飾によりfilaminとの相互作用が抑制されることが分かった。 心疾患以外の慢性疾患に対するDrp1-filamin複合体の関与についても糖尿病モデルマウスを用いて検証を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
Drp1-filamin複合体形成を阻害する既承認薬シルニジピンが糖尿病モデルマウスの血糖値上昇を改善することを明らかにした。糖尿病モデルマウスの肝臓ではミトコンドリア形態・機能が異常を来しており、シルニジピン投与によってそれが改善することを明らかにした。今後は糖尿病モデルマウスの肝臓におけるDrp1-filamin複合体形成をPLAアッセイを用いて直接観察すると共に、肝臓機能におけるミトコンドリアの役割について検証を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入しようとしていた試薬の生産に時間がかかり、年度内に届かなかったため、次年度に持ち越した。
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