研究課題/領域番号 |
19K07086
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
細田 直 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(薬学), 准教授 (40438198)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 翻訳終結 / mRNA分解 / トリプレットリピート / アポトーシス / 癌発症 |
研究実績の概要 |
ヒト翻訳終結因子eRF3のN末端には、GGCトリプレットリピートによってコードされるグリシンリッチ領域が存在する。先に申請者らは、この領域がプロテアーゼにより切断されることを見出した。切断により露出したN末端配列にはアポトーシス阻害因子IAPが結合し、アポトーシスが制御されることを明らかにした。興味深いことに、正常ではこのリピート数が10もしくは11であるのに対し、12以上になると乳癌および胃癌発症率が増大することが、遺伝子多型解析により示されている。 本研究では、eRF3のもつグリシンリッチ領域のプロセシング異常が癌発症を増大させる分子メカニズムを解明する。eRF3はグリシンリッチをコードするリピートが増幅することにより、プロテアーゼによる切断制御に異常が生じ、eRF3が担う多彩な機能に影響を及ぼすと想定される。eRF3は翻訳終結反応に機能するとともに、mRNA分解の律速段階であるポリA鎖分解制御に関与することを申請者らは既に見出しており、本年度はその分子機構について解析を進め以下の新たな知見を得た。 まず、eRF3発現抑制時におけるリボソームの動態を、リボソームプロファイリング法により解析した。その結果、eRF3発現抑制時において、翻訳終結反応異常により引き起こされるリボソームの終止コドン近傍における停滞、および終止コドンのリードスルーが、ゲノムワイドに生じていることが明らかとなり、eRF3が効率的な翻訳終結に不可欠であることが確認された。このときのmRNAの動態をノザンブロット法によって解析したところ、ポリA鎖の分解促進が認められた。以上の結果より、eRF3は翻訳終結因子として機能するとともにポリA鎖分解を抑制することが示唆された。eRF3はmRNA分解における律速段階となるポリA鎖分解の速度を適切に保ち、mRNAの寿命を決定する役割を担っていると想定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の解析により、不明な点が多く残されているeRF3が翻訳終結反応とポリA鎖分解を結びつける分子機構については、新たな知見を得ることができた。一方で、この分子機構と癌発症を増大させる分子メカニズムの関連について、本年度は未着手であった。よって現在までの進捗状況は概ね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
eRF3リピート増幅が、プロテアーゼによる切断、翻訳、mRNA分解に及ぼす影響について以下解析を進める。 (1)eRF3は、小胞体ストレス(ツニカマイシン、タプシガルギン)環境下において顕著な切断をうける。トリプレットリピートが0~20となる複数のヒトeRF3の発現ベクターを哺乳動物培養細胞に導入し、リピート増幅にともない切断が抑制されるかどうか解析する。 (2)各種リピート数をもつ精製eRF3組換えタンパク質を作製し、in vitroにおける凝集能について検討する。酵母eRF3のプリオン凝集解析で実績のある、チオフラビンTが凝集体に結合したときに発する蛍光を指標に定量的に解析する。さらにこれら精製タンパク質をあらかじめ哺乳動物培養細胞にタンパク質導入試薬により導入した時のeRF3切断抑制を検討する。 (3)eRF3は翻訳終結およびmRNAポリA鎖短縮化および分解促進に関与する。リピート数がこれらに影響を及ぼす可能性について検証する。各種リピート数をもつヒトeRF3ベクターもしくはeRF3プリオン凝集体を導入時において、翻訳効率についてはルシフェラーゼレポータ遺伝子を用い、mRNAポリA鎖短縮化および分解についてはbグロビンレポータ遺伝子を用い解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品を効率よく購入したため若干の有余が生じた。この有余は翌年度の不測な消耗品の購入に充当する。
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