研究課題
長鎖アシルCoA合成酵素4 (ACSL4) は高度不飽和脂肪酸 (PUFA)の生体内での利用に関与し、特に、本酵素の欠損はアラキドン酸の再取り込み(エイコサノイド産生に対する効果)やリン脂質中のPUFA含有量(フェロトーシスに対する効果)に影響を与えることが明らかとなってきている。しかしながら、生体内での本酵素の機能については不明なところが残されている。本年度は、1)ACSL4欠損マウスにリポ多糖 (LPS) を投与することにより惹起される炎症応答(血中エイコサノイド産生量の変動)、および、2)培養細胞を用いた解析(ACSL4のノックダウンによるリン脂質の脂肪酸組成への影響)を実施した。1)LPSを投与したACSL4欠損マウスでは野生型マウスと比較して、血中のエイコサノイド産生量が有意に増加するあるいは増加する傾向のあるものが存在することが明らかとなった。また、エイコサノイドの産生パターンはエイコサノイドの種類により異なっており、LPS投与後一過的に増加しその後減少するもの、あるいは、持続的に増加するものが存在することが明らかとなった。現在、ACSL4の欠損により生じるこれらの影響の発現メカニズムの解明を目指している。2)ヒト腎由来細胞にACSL4特異的siRNAを導入し一過的にACSL4をノックダウンさせると、細胞内のPUFA由来の長鎖アシルCoA含有量が著しく低下した。しかし、ACSL4ノックダウン細胞のリン脂質の脂肪酸組成を解析すると、長鎖アシルCoA含量に与える影響とは異なり、ある一種類のPUFAを含有するリン脂質のみが特異的に減少することが明らかとなった。したがって、本細胞にはこの特定の脂肪酸を選択的に代謝する機構が存在する可能性が考えられた。また、この結果はACSL4によるPUFA含有リン脂質の調節機構が、すべての細胞で共通に使われるというわけではなく、細胞の種類により異なる場合があることを示している。
2: おおむね順調に進展している
データも蓄積つつあり、概ね順調に進行していると考えている。
ACSL4欠損マウスは雌性生殖に異常があるため、得られる欠損マウス数を確保するため交配のペア数を増やすことにより、解析に用いるマウスを確保し検討を進める。解析の内容については、ACSL4欠損マウスを用いて、敗血症の悪化機構の解明および雌性生殖異常のメカニズムの解明することを目指す。
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