研究課題/領域番号 |
19K07089
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
鍜冶 利幸 東京理科大学, 薬学部薬学科, 教授 (90204388)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 血管内皮細胞 / 活性イオウ分子 / 活性イオウ分子産生酵素 / 有機-無機ハイブリッド分子 / 銅錯体 / 細胞内シグナル経路 / バイオオルガノメタリクス |
研究実績の概要 |
血管内皮細胞は血液と直に接している唯一のcell typeである。このような内皮細胞の特性のために,有害化学物質は内皮細胞を経ることなく毒性発現の標的である実質細胞に到達することができない。活性イオウ分子は,重金属や活性酸素などに対する生体防御システムを担う分子として機能していると考えられている。今年度は血管内皮細胞において,有機-無機ハイブリッド分子によって誘導される活性イオウ分子産生酵素の同定とその誘導を担う細胞内シグナル経路を解析した。ウシ大動脈内皮細胞を培養し,有機-無機ハイブリッド分子ライブラリーから抽出した銅錯体Copper diethyldithiocarbamate(Cu10)の作用を調べ,この銅錯体が活性イオウ分子産生酵素の1つCystathionine γ-lyase(CSE)の転写を誘導することを見いだした。Cu10は,他の活性イオウ分子産生酵素であるcystathionine β-synthase, 3-mercaptopyruvate sulfotransferaseおよびcysteinyl-tRNA synthetaseに対しては転写誘導活性を示さなかった。また,CSEの転写誘導には,Cu10分子の配位子diethyldithiocarbamateの構造と銅原子の両方が不可欠であることも示された。Cu10によるCSEの転写誘導は,主としてERK1/2経路,p38 MAPK経路およびhypoxia-inducible factor (HIF)-1α/HIF-1β経路によって介在されていることが分かった。これらの経路による複合的なCSEの誘導は既報にはなく,血管内皮細胞に特有な活性イオウ分子の産生調節機構の存在を示唆するものである。同時に,本研究は,生体機能解析に有機-無機ハイブリッド分子を分子プローブとして活用する研究戦略バイオオルガノメタリクスの有効性を示すものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は,生体内で血液と直に接しているというきわめて特殊な環境に存在する血管内皮細胞において,重金属や活性酸素に対する防御因子として機能する活性イオウ分子の機能および産生調節を,重金属,細胞増殖因子/サイトカインおよび有機-無機ハイブリッド分子を用いて解析しようとするものである。令和元年度では有機-無機ハイブリッド分子を分子プローブとして解析し,銅錯体Copper diethyldithiocarbamate(Cu10)が活性イオウ分子産生酵素の1つCystathionine γ-lyase(CSE)の転写誘導を引き起こすことを見つけ,その誘導にERK1/2経路,p38 MAPK経路およびhypoxia-inducible factor (HIF)-1α/HIF-1β経路が複合的に介在することを明らかにした。内皮細胞における活性イオウ分子の機能については解明に至らなかったが,活性イオウ分子産生酵素の発現誘導に関する新しい知見を生体機能解析に有機-無機ハイブリッド分子を分子プローブとして活用する研究戦略バイオオルガノメタリクスに基づいて明らかにできたことは順調な進捗と言って良いと考える。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度の研究成果をもとに,令和2年度では細胞増殖因子/サイトカインについて,活性イオウ分子産生酵素の発現調節を解析する。血管内皮細胞は,様々な細胞増殖因子/サイトカインによる機能調節を受けるが,内皮細胞が傷害されたときに細胞外に逸脱して自己分泌型に内皮機能を調節する線維芽細胞増殖因子-2(FGF-2)および内皮傷害部位に粘着・凝集した血小板から大規模に放出されるトランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)による調節は特に重要である。そこでこの2つの因子による調節を中心に制御を受ける活性イオウ分子産生酵素を同定し,その制御を介在する細胞内シグナル経路を明らかにする。併せて,毒性学的観点から内皮細胞における活性イオウ分子の機能を解析する。さらに重金属の活性イオウ分子産生酵素の発現への作用とそのメカニズムについての研究にも着手したい。
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