研究実績の概要 |
2019年度,培養血管内皮細胞において,有機-無機ハイブリッド分子ライブラリーから抽出した銅錯体Cu10が,重金属や活性酸素などに対する生体防御システムを担う分子として機能している活性イオウ分子の産生酵素の1つCystathionine γ-lyase(CSE)の転写を,ERK1/2経路,p38 MAPK経路およびHIF-1α/HIF-1β経路の活性化によって誘導することを見出し報告した(Fujie et al., Int. J. Mol. Sci., 21, 6053, 2020)。2020度は,有害重金属について同様の検討を行なった。検討した10金属(類)のうち,鉛がCSEタンパク質およびmRNAの発現を強く上昇させることが示された。CSE以外の活性イオウ分子産生酵素(cystathionine β-synthase, 3-mercaptopyruvate sulfotransferaseおよびcysteinyl-tRNA synthetase)には鉛による誘導は認められなかった。鉛は細胞内活性イオウ分子総量を増加させ,特にCysteine persulfideが顕著に増加していた。我々は,鉛が内皮細胞において鉛が小胞体ストレスを引き起こし,JNK-AP1経路の活性化によってシャペロンタンパク質GRP78/94を誘導することを報告している(Shinkai et al., Toxicol. Sci., 114, 378-8211;386, 2010)。そこで,小胞体ストレスシグナルについて検討したところ,鉛がPERK-ATF4経路を活性化することによってCSEの発現を誘導することが明らかになった。この結果は,血管内皮細胞において,天然には存在しない化合物と環境汚染金属の鉛が共通してCSE遺伝子発現を誘導するが,その誘導を介在する細胞内シグナル経路は異なることを示している。
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