研究課題/領域番号 |
19K07093
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
浦野 泰臣 同志社大学, 生命医科学部, 准教授 (00546674)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / 脂質代謝 / 細胞死 / ACAT (SOAT) / ドラッグリポジショニング / 24S-hydroxycholesterol / 小胞体ストレス |
研究実績の概要 |
本年度は目的Iの脳特異的酸化ステロールである24S-hydroxycholesterol(24S-OHC)誘導性神経細胞死の誘導機構について、24S-OHCがエステル化依存的に小胞体ストレス応答を誘導することを明らかにした。また、その下流の細胞死誘導シグナルとしてCHOPの発現は関与していないこと、小胞体局在mRNAの減少(regulated IRE1-dependent decay、RIDD)が、24S-OHCのエステル化依存的に起きることを明らかにし、IRE1経路の阻害剤は部分的に細胞死を抑制することを見出した。また、小胞体の膜構造の破綻が24S-OHCのエステル化依存的に起きていることを電子顕微鏡解析及び細胞分画法により証明した。さらに新生タンパク質の合成が、顕著に減少していることを明らかにした。以上、小胞体機能の異常が、24S-OHC誘導性細胞死に重要な役割を果たしていることが明らかになった。 目的IIについて、神経細胞としてヒト神経芽細胞種SH-SY5Y、肝癌由来細胞としてHepG2細胞を用い、25-OHCの細胞毒性を検討した。その結果、どちらの細胞についても濃度依存的に細胞死が誘導された。そこでACAT阻害剤の効果を検証したところ、SH-SY5Y細胞では有意に細胞死が抑制されたのに対し、HepG2細胞では阻害効果が認められなかった。これらの結果から、25-OHC誘導性細胞死に対してもACAT阻害剤は効果を示すが、細胞の種類に依存する可能性が示唆された。 目的IIIについて、APPのγセクレターゼ基質部分(C99)が発現誘導可能なCHO細胞株(C99/wtPS1)を用いてAmyloidβ(Aβ)産生に対する効果を確認したところ、K-604処理は濃度依存的にAβ産生を抑制し、さらにC99の量をプロテアソーム依存的に減少させる効果があることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目的Iについては、24S-OHC誘導性細胞死のメカニズムとして、昨年度までの結果から、acyl-coA:cholesterol acyltransferase 1(ACAT1)によりエステル化された24S-OHCが、小胞体膜の脂質二重層に蓄積することで脂肪適様構造を形成し、小胞体ストレス応答や小胞体膜破綻、新生タンパク質合成抑制を誘導することで、カスパーゼ非依存的に非典型的なプログラム細胞死を誘導することを示した。これまでの成果をまとめた論文がCell Death and Discovery誌に掲載された。 目的IIについて、筋萎縮性側索硬化症の神経細胞や、肝癌細胞で増加し、細胞死を誘導することが報告されている25-OHCが、SH-SY5Y細胞には限定的であるがACATによるエステル化依存的な細胞死を誘導することを示した。これらの結果から、25-OHC誘導性細胞死の抑制剤としてのACAT阻害剤について出願を行った。一方、HepG2細胞ではACATの関与が認められなかった。派生実験としてヒト角化細胞株HaCaT細胞についても25-OHCの効果を検証したが、濃度依存的に細胞死を誘導するが、ACATの関与は認められなかった。 目的IIIについて、K-604の効果がC99に影響を示す可能性が示唆されたことから予定を変更し、C99を発現するCHO細胞を用いてK-604の効果を検証した。その結果、K-604がC99をタンパク質発現レベルで減少させることがAβ産生に影響を与える可能性が示された。また本来脳移行性の低いK-604について経鼻投与法を開発し、マウスを用いた場合に約90倍に投与効率を上げ、脳内のコレステロールエステルを減らす効果が得られることを示し、ACS Omega誌に掲載された。以上のことから、交付申請書に記した目的における2019年度の計画は順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
目的Iについて、24S-OHCにより誘導された新生タンパク質の翻訳抑制機構について解析を進める。目的IIについて、筋萎縮性側索硬化症を想定し、運動ニューロンの細胞株を用いて、25-OHC誘導性細胞死機構について解析する。目的IIIについて、プロテアソームの関与について、CHO細胞やSH-SY5Y細胞を用いて検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬調達方法や使用する試薬量の工夫などにより、当初計画より経費の使用が節約できたことにより、次年度持ち越し分が生じた。 研究費の使用計画として、今年度に引き続き次年度においても培養細胞株を用いた実験を行うため、当初の計画通り細胞培養用試薬の購入を計画している。またsiRNAや阻害剤等など生化学、分子生物学実験試薬についても購入する。特に抗体の購入費の割合が大きくなることが計画される。
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